エルピーダとはどんな会社か?(その2) |
(その1)はこちらをご参照下さい。

改正産業活力再生法に基づく公的支援第1号企業となったエルピーダメモリ?の有価証券報告書を眺めて気になった点をコメントしたいと思います。 興味のある方は2009年3月期の有価証券報告書(ダウンロードはこちらから)を参照しながらお読み下さい。 まず、同社の事業内容についてです。ホームページには、 「世界No.1のDRAMソリューションカンパニーを目指す、エルピーダメモリ」とあります。 「DRAM」とはパソコン等のお詳しい方であれば、耳慣れた言葉かもしれませんが、現在のデジタル製品にとってなくてはならないデータ記憶のための部品とでも言うものです。
同社の説明では、「DRAM(Dynamic Random Access Memory)は、キャパシタに電荷を蓄えることによって、一時的にデータを保持するメモリ半導体です。他のメモリ半導体に比べて、高速かつ大容量化しやすい特長を有することから、DRAMは今日、PCやサーバ、モバイル機器、デジタル家電など、さまざまな情報通信・エレクトロニクス機器のメインメモリとして組み込まれ、その進化を支えるキーデバイスのひとつとなっています。」とあります。 また、このDRAMは以下の2つのカテゴリーに分けられています(IR資料を読む際に理解しておくと便利)。 ◎コンピューティングDRAM分野 ◎プレミアDRAM分野
これらいずれの分野とも、とにかく技術革新のスピードと価格の下落のスピードが速く、多額の研究開発及び設備投資が必要となります。また、国別の競争も激しいなか、現状、DRAM市場は不況のまっただ中にいる状況です(参考記事はこちら)。
この辺りの事情を、財務ハイライト(有報2ページ目)で確認すると以下のとおりです。 ・売上高 :(H19/3)4,900億円 ⇒ (H20/3)4,054億円 ⇒ (H21/3)3,310億円(▲18.3%) ・経常利益:(H19/3)636億円 ⇒ (H20/3)▲396億円 ⇒ (H21/3)▲1,687億円 ・純資産額:(H19/3)3,789億円 ⇒ (H20/3)3,478億円 ⇒ (H21/3)2,664億円(▲23.4%) ・営業キャッシュ・フロー: (H19/3)+998億円 ⇒ (H20/3)+831億円 ⇒ (H21/3)▲483億円 ・投資キャッシュ・フロー: (H19/3)▲1,366億円 ⇒ (H20/3)▲2,603億円 ⇒ (H21/3)▲754億円 ・財務キャッシュ・フロー: (H19/3)+905億円 ⇒ (H20/3)+1,106億円 ⇒ (H21/3)+1,403億円
これを見てどのような感想を持つでしょうか?? 個人的な感想を率直に述べると、 H20/3からH21/3の動きは尋常なものではなく、ブレーキが壊れた車を下り坂で運転してるような状況ではないでしょうか。その先に軽い上り坂が待っていて自然に車が減速するのか、はたまた、スピードはさらに加速していき急コーナーに突っ込みコースアウトするのか、はいわば神のみぞ知ると言ったら大袈裟でしょうか・・・
特にH20/3期の投資キャッシュ・フローとして2603億円もの資金を支出しているにもかかわらず、翌期H21/3期において、売上が前期比で約2割も落ち込み、経常損失が1687億円発生してことを見れば、その投資によって取得された設備はいまどのような状況になっているかは「火を見るよりも明らか」ですね(設備操業度、稼働率は何%なのでしょうか)。
なによりも、危機感を募らせるのは、それまでは営業キャッシュ・フローが常にプラス(+998、+831億円)であったのが、一転、マイナス(▲483億円)となったことです。売上が多少減少しても、営業キャッシュ・フローが安定的にプラスであれば、その範囲で設備投資を行い(同社の場合、営業キャッシュ・フローだけでは投資キャッシュ・フローを賄えない状況が続いていましたが・・・)、財務キャッシュ・フローを改善することもできます。 しかしながら、営業キャッシュ・フローがマイナスになれば、与信能力が低下し、資金調達コストが上昇するため、一般的に設備投資を抑制せざるを得なくなります。結果として、同社が戦っている半導体などの最先端事業領域では、設備投資の抑制は競争力の低下という形に如実に表れ、ますます売上が減少していくという負のスパイラルに陥っていく危険性が高まります。 さらに言えば、このような超設備投資型企業で営業キャッシュ・フローがマイナスになるというのは相当の緊急事態です。それは、多額の設備投資を毎期実行している限り、多額の減価償却費が発生するため、何もしなくても、営業キャッシュ・フローはプラスからスタートするからです。有価証券報告書67ページをご覧頂ければ、営業キャッシュ・フローの2行目に、+940億円及び+947億円の数字が並んでいるのが分かると思います。すなわち、これを吹っ飛ばす営業損失がない限り、営業キャッシュ・フローはそう簡単にはマイナスにならないのが世の常なのです(減損や評価損などの非現金支出費用はいくら発生してもキャッシュ・フロー上は問題ない)。
また、同社はもともとNECと日立のメモリ製造事業を母体としながら、三菱電機のDRAM事業を譲り受ける形で、2004年11月に東証一部に上場しています。 似たような企業として?ルネサステクノロジがあります(日立製作所55%、三菱電機45%)が、こちらもかなり苦戦を強いられており、一部ではエルピーダ同様、公的資金の注入が取りざたされています。
共通して言えることは、非常に技術革新が激しく大規模な設備投資が求められる企業においては、自己資本だけでは資金調達が追いつかず、間接金融レバレッジが必須となるため、右肩上がりの成長局面では業績がてこの原理で拡大するが、一旦、需要減退局面に入ると急激に資金繰りが悪化するということです(まあ、投資家もある程度はそれを理解して投資しているものと思われますが)。
さて、ここからがポイントです! このような過剰債務企業の有価証券報告書で、真っ先に見るところは、経験上、次の箇所と思われます。 1.貸借対照表の負債の部にて有利子負債の増加額を体感する 2.損益計算書の支払利息の増減を確認する 3.連結附属明細表の「社債明細表」「借入金明細表」を確認する 4.有利子負債に関する注記箇所(担保差入状況や財務制限条項など)を確認する 5.連結注記で気になるところがないかレビューする
それでは、1つずつ見ていきましょう。
1.流動と固定負債合計ベースでの有利子負債(厳密にはリース債務も有利子負債ですが、ここでは省略します)を見ましょう。
H20/3: 384+1,600+818=2,802億円 ↓ H21/3: 28+550+1,100+1,050+2,220=4,948億円 となり、倍に近い勢いで増加しています。 なお、当期増加の多くは1,100億円にのぼるコミットメントラインの実行(引き出し)による間接金融です。会社の目論見としては500億円のMSCB(利息なし:償還期限1年後)で調達する予定でした(後述の3.にて詳細分析)がこれが頓挫したため、やむなくコミットメントラインを実行したというところでしょうか。 残りは、当期に新規連結したRexchip Electronicsという台湾の合弁会社が抱える借入金が連結貸借対照表に加算されたためです。
有利子負債がこのような増え方をしている場合、その調達資金の多くが設備投資に回っていたとしても、売上が2ケタ成長でもしていない限り、投資家・債権者としては不安になるでしょう。ましてや売上が2割減少し、DRAMの販売単価も激烈な勢いで下がっている状況では・・・。 いずれにせよ、金融機関から調達できるものすべて手を尽くした状況といっても過言ではないでしょう。
2.連結損益計算書の営業外費用「支払利息」を参照しましょう。
H20/3: 42億円 ⇒ H21/3: 63億円 となっています。 なお、それほど増加してないのでは?とお考えの方もいると思いますが、 H21/3期中で調達した借入金も多額にありますので、実際に1年を通した金利負担の増加は当期(H22/3期)にさらに表れるてくると思われます。
3.有価証券報告書107ページ以降を見ます。 まずは、「社債明細表」です。 無担保社債を第1回から第6回まで総額1,600億円発行しています(すごいペースです・・・)。償還期限は短いもので5年、長いもので7年となっています。利率は第1回が1.45%と最低でしたが、ここ3回は2.29%、2.09%、2.10%となっており、金利負担がじわじわ効いてきている状況です。なお、第1回無担保社債550億円は、来年3月が償還期限となっており、以降、毎年、300億円~450億円の償還が続きます。
注意するのは次の注記です。 「当社は、平成20年11月4日に第三者割当による「第1回無担保転換社債型新株予約権付社債」を以下のとおり発行致しました。そのうち一部(6,000百万円)について新株予約権の権利行使が行われましたが、平成21年1月9日に未償還残高(44,000百万円)全額を繰上償還したため残高はありません。」 ホームページによると500億円のうち60億円分が転換行使されたため、これが起債条件における「大量行使」にあたり、残額が繰上償還されたようです。 11月の発行時点で既に市況は大幅に悪化していたにもかかわらず、直近の株価を参照するものではなく、少し前の平均株価から算定した高い転換価格(@1,017円)での発行になったため、下限転換価額(@509円)を下回る株価が20営業日以上続いたというのが総括です。いろいろな悪条件が重なったにもかかわらず社債発行を断行した結末でした(主幹事の野村證券の対応もどうだったのでしょうか)。 結果的に500億円の資金調達のうち440億円は手許資金の返還で消えたため、当初の目的が果たせないばかりか、市場からの同社に対する評価も下がり、資金繰り悪化観測が急速に広まったのではないでしょうか。この後、社債による調達はありません。
次に「借入金明細表」です。 ここでは、返済スケジュールに留意します。 H22/3(当期)返済予定 1,100億円! ⇒ H23/3:780億円 ⇒ H24/3:339億円 となっています。 当期末までに返済する1,100億円は、上記1.で書いたコミットメントライン実行額と思われます。H21/3期末のキャッシュ残高が、1,136億円なので、仮に営業キャッシュ・フローと投資キャッシュ・フローが均衡したとしても、ほとんど手許のキャッシュが枯渇する見当です。さらに言えば、営業キャッシュ・フローが早期
あと一息です・・・ 本日はここまでとして、続きは明日更新します。
追伸:本日7月6日は「公認会計士の日」でしたね。日経の広告見たでしょうか。 キャッチフレーズは微妙な感じですが、日本公認会計士協会のホームページが新しくなってますね。
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エルピーダとはどんな会社か? |
少し前になりますが、 「政府がエルピーダに支援決定、再建資金1600億円」という記事が話題になりました。
以下、記事内容の抜粋です(詳細はリンク参照)。 「経済産業省は30日、エルピーダメモリ(6665.T: 株価, ニュース, レポート)に対し、改正産業活力再生法に基づく公的支援を認定したと発表した。エルピーダが8月に発行する300億円の優先株を日本政策投資銀行が引き受ける。 同法に基づく出資は初めて。このほか、台湾当局が主導して設立する台湾メモリー(TMC)が09年度中に、エルピーダに200億円程度を出資する。公的支援や民間金融機関の協調融資でエルピーダの再建にかかる資金は1600億円。日本と台湾のDRAMメーカーの再編を通じて過剰供給構造の解消を図る。」
改正産業活力再生法に基づく公的支援とは、著しい経営環境の悪化に伴い、売上が激減し、その結果、キャッシュ・フローが懸念される企業のうち、経営破綻することによる社会的影響が甚大と認められる企業に対して、国が日本政策投資銀行の融資に保証を付けることで、資金繰りなどをバックアップする政策です。 エルピーダメモリはこの公的支援の1号案件になったという訳です。それにしても国が公的に支援するということで、民間金融機関も相乗りし(当局から協調融資の「天の声」があったのかもしれませんが・・・)、総額1600億円のキャッシュを注入するのですから、すごいものですね。 日本航空もそうですが、これが返済できれなければ・・・・、皆さんの税金が毀損するということですよね。 その意味では、実質的に国が資金の貸主といっていますが、これはすなわち、間接的には皆さんの血税が使われているということになり、日本国民が貸主として、対象企業の動向や返済状況に注目していくべきなのでしょうね。
私はエルピーダという企業がどのような沿革で、現状どんなビジネスを行っているかについて一般的な知識はありましたが、それ以上の深い理解はありませんでした。 という訳で、この際だから直近の有価証券報告書をしっかり見て、この企業の現況と将来の展望を分析してみようと思いました。
有価証券報告書はこちら
なお、有価証券報告書の読み方にはコツがあります。 いきなり「経理の状況」(いわゆる貸借対照表や損益計算書などの財務諸表)を読むのは、余程の専門家以外はお進めできません(私もさすがにいきなり「経理の状況」は読みません)。
【ポイント】 1.対象会社の定性的情報を理解し、どんな会社かを具体的にイメージする 2.直近に至る経営環境の推移をつかむため、冒頭の財務数値ハイライト情報を使い、3年程度の時系列比較をするとともに、「事業の状況」の文章を読み理解する。 3.「対処すべき課題」や「事業等のリスク」にて将来を占う意味で何が不確実性リスクとなるかを把握しておく。 4.「研究開発活動」を読み、将来の「飯の種」の有望性を検討する。 5.「提出会社の状況」では、株主構成や直近株価推移、役員の構成とそれに関連してコンプライアンスが効く体制になっているかを理解する(ここを読み解くのは結構難しい)。
ここまで下準備をしてようやく、「経理の状況」(財務情報)の読解に入るのが理想です。 なお、貸借対照表や損益計算書を見る際には、必ず前に戻り「財政状態及び経営成績の分析」とセットで読んで下さい。
「経理の状況」で特に留意するポイントは以下です。 6.前期と比較し、著しく増減している残高がないか。もし、著増減があるが場合、「財政状態及び経営成績の分析」で文章説明がないか確認する。 7.普段目にしないような特殊な勘定科目があった場合、財務諸表に続く注記情報を確認する。 8.損益計算書の特別損益の部については、特に注意してみる。 9.キャッシュ・フロー計算書は、その企業が置かれた資金繰りや将来投資の状況を如実に表すので、慎重に読み解く(これだけでかなりのテクニックを要求されるので、また、別途機会を設けて解説したいと思います) 10.会計方針や注記事項においては、以下の項目を特に注意する(これは大事です!) ◎会計方針の変更(法令や会計基準の変更に伴う一般的な会計方針の変更はあまり気にしなくてもいいです。) ◎追加情報 ◎後発事象 11.最後に監査法人・公認会計士による監査報告書が、いわゆる通常の「無限定適正意見」がどうか確認する(重要な会計方針の変更や後発事象、企業の継続性(ゴーイング・コンサーン)に問題がある場合、監査報告書に追記情報が付されます)
以上のポイントに気をつけながら有価証券報告書を読むと、この1冊にいかに多くの情報が含まれているかということを改めて認識できると思います。
本題に戻りますが、エルピーダの有価証券報告書を拝見しました。 そこから、「ん、これは!」という情報がいくつか見られました。 この詳細は明日のブログに引き続きとしますが、ご興味ある方のため、一つヒントのキーワードを。
「コベナンツを抱える企業の苦悩」
では、次回お楽しみに。
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56社、2%とは!? |
本日の記事から。。。(2009年7月2日 日経朝刊財務面) 「2009年3月期から始まった内部統制報告制度で、経営者が自ら「重要な欠陥」があると開示した上場企業は1日までに56社あった。会計処理の誤りを会計監査人から指摘されて内部統制報告書に記載した企業が目立つ。先に導入した米国では初年度に16%の企業が欠陥があると記載したが、日本では全体の2%だった。同報告書は決算書の「品質保証書」ともいえ、新たな投資判断の材料となりそうだ。・・・」
6月末を過ぎ、有価証券報告書の提出が一通り終わりました。今年は何といっても導入初年度の内部統制監査の結果、どうだったのかに注目が集まりました。 本日の新聞記事では、「重要な欠陥」を開示した企業がどのくらいあったかを解説していました。関連のコメントはこちらでも書きましたが、率直な印象を述べます。
「重要な欠陥」企業が56社、全体の2%とありましたが、「そんなに少ないの?」という一方で「やっぱりな・・・」という相反する感が入り交じったものでした。
「そんなに少ないの?」という気持ちの裏には、米国でのSOX初年度の数字である16%に比べ、それまで内部統制やコンプライアンスに対する意識や、手続・意思決定の文書化などの慣行が、日本企業に比べれば1歩も2歩も先行していた米国でさえ16%の企業に欠陥(US-SOXでいうところの、Material Weaknessですが)があったというのに、日本企業の2%は余りにも少なすぎるのでは、というものがありました。
多ければいいというものではありませんが、私が昨年末から今年の初頭にかけて、複数の企業の担当者や監査法人の知り合いなどから「いまだに多くの企業で経営者評価や監査に耐えうる文書化が終わっていない。このままだと多くの企業で大変な監査意見がでるのでは・・・」というコメントを聞いていました。それが蓋をあけてみれば何ということもない、「大変な監査意見」は全体の2%にとどまった訳です。何かがどこかで変わったという感じを持ちました。実際に関係者からも「最後の方は、当初の意気込みがどこに消えたの、という感じだよね。」というため息が多く漏れていました。
しかも、今回「重要な欠陥」を開示した企業の多くは、業務プロセスに重大な欠陥があるのではなく、財務諸表監査の過程での会計処理誤りが、会社のチェックではなく、監査人の監査手続により発覚したため、決算財務報告プロセスに問題があったと言わざるを得なかったケースでした。これについては、当然、財務諸表監査では誤りが修正されることになりますので、「内部統制上は重要な欠陥がありましたが、財務諸表監査では治癒しています。投資家のみなさん、そんなに気にしないで下さいね。めでたし、めでたし。」という雰囲気さえ感じられます(とは言っても、内部統制監査意見に限定事項をつけるのは監査人・会社にとってそれなりに大きな話ですので、そんな安穏な実情ではないかと思いますが)。
おなじ新聞の別の記事で識者のコメントとして 「内部統制制度の初年度にもかかわらず「重要な欠陥がある」と開示した企業が全体の2%にとどまったのは、先行して導入した米国の事例を参考に入念な準備を進めてきたためだ。金融庁や監査法人などが中心となり制度の周知を進め、多くの企業が社内体制の整備を推進してきた結果だろう。」 というものがありました。確かに入念な準備の結果というのは分かりますが、素直に頷けない部分もあります。
それは、途中で金融庁が「11の誤解」なる異例の見解を出し始めたあたりから、監査人側に「気後れ」が広まっていったと考えられるためです。この横やりがなければ、「重要な欠陥」企業は、全体の2%では済まなかったのではないでしょうか。 それを示唆するように近くにこんな記事もありました。 「監査法人トーマツは1日、上場企業を対象とするアンケートに回答した企業の21%で不正が発生していたとの調査結果を発表した。具体的な不正行為の内訳は、現金や在庫の横領・窃盗などが69%と最も多く、売上高の架空計上などの不正な財務報告が22%で続いた。対策として研修を実施していると回答した企業は61%だった。また、2009年3月期から始まった金融商品取引法に基づく内部統制報告制度への対応が、不正の防止や発見に一定の効果があると答えた企業は70%に上った。同調査はトーマツが全国上場企業(3870社)を対象にアンケートを送付し、512社から回答を得た」
ん~、実態はどうなんでしょう。やはり、内部統制や不正防止を真剣に取組めば、本来、見過ごせない「重大な欠陥」はもう少し多いのではないでしょうか。
そうは言うものの、最終的には景気の低迷を受け、これ以上企業に内部統制負担をさせるべきではない、ゴーイングコンサーンの方が大事だという世論(と金融庁)の後押しがありました。 その結果、もし監査人として何のしがらみもなく内部統制監査基準に従って意見形成するならば、当然に「限定付適正(重大な欠陥あり)」になっていたであろう企業においても、無限定適正意見が付いたケースも相当数あったのではないでしょうか。
たとえが不謹慎かもしれませんが、監査意見を表明する最終段階の気持ちとしては「赤信号、みんなで渡れば怖くない」というものではなかったでしょうか。
ただし、今回監査結果が出そろったから、内部統制監査の初年度の総括が終わった、という訳ではありません。もともと、この制度の趣旨に立ち戻る必要があります。 この制度は、財務報告における重大な粉飾や誤謬を防ぐことを主たる目標にしています。今回これでようやく、その仕組みが各企業に整備されたという段階です。 お察しのいい方は、「無限定適正の監査意見が付いている企業は内部統制の『整備』だけではなく、『運用』状況にも問題はなかったはずだ」ということに気がつくと思います。
しかしながら、個人的見解ですが、今回はそこまで行き着かなかった部分も多々あるのではと思います。例えば、2008年12月末までにいくつかの不備が発見されていた場合、本来それが改善され、一定期間の運用状況にも問題がなかったとする「ロールフォワード」が必要なのですが、果たしてそれが十分に出来たかは疑問です。
例えるならば、「急に病気が発見されたため、執刀時間に制約はあるが、緊急手術を行わざるを得なかった。とりあえず何とか病巣は取り除き、急いで傷口を縫合し、終了予定時間には間に合った。術後の経過はこれからじっくり観察しなければ・・・」という感じでしょう。
従って、内部統制初年度の総括をするのは時期尚早です。これからの1年~2年の間に、はたして従来に比べ、粉飾決算、不正取引、訂正報告書の提出などが減ったかどうかによって、その真価が問われると考えます。 私が懸念しているのは、今はその「術後の経過観察」がスタートしたに過ぎないにもかかわらず、関係者の間では「あ~、ようやく内部統制が終わってよかったね。2年目以降は少し楽になるな。」という空気が充満している点です。
経営者による粉飾決算に内部統制がどの程度有効かという根本的な問題はありますが、これだけのお金と時間をかけ、ほとんど全ての企業でその仕組みは良好と保証された訳ですから、やはり「内部統制のおかげで、粉飾や不正が減ったな」という状況にならないとおかしいのではないでしょうか・・・。
J-SOXの功罪を要約すると次のとおりです。 (功) ◎世の中に「内部統制」という言葉が普及し、コンプライアンスとともに各人の意識がアップした(なかには今だに「承認印の押印箇所が増えて面倒くさい」とか思っている人もいますが) ◎取引フローを整理してみたら、案外無駄な作業があったことに気づき、それを省くようになった ◎監査部や経理部が、事業部や現場の人とコミュニケーションを取る機会が増え、そのプレゼンスが向上した
(罪) ◎この(横並びの)監査報告書をもらうために、こんなに時間とお金をかけたのか。外部監査人による法定監査を義務付けるほどのものだったのか。 ◎まじめにやった企業とそうでなかった企業で、結果にそれほどの差は出なかった(制度のコンセプトエラーからくる不公平感) ◎儲かったのはシステム・コンサル・監査業界だけで、日本の上場企業全体での経済損失は相当のものとなった ◎上場準備企業にとって上場することへのハードルがあがり、「だったらわざわざ上場しなくても」という風潮さえ出始めた。 ◎四半期報告制度の導入と重なり、経理・財務担当者の負担が許容限度を超えたため「経理離れ」が加速した。新入社員の配属希望で「経理」が圧倒的に少なくなり、「経理には、やる気のない人が送られてくる・・・」と嘆く中堅経理マンの声も多く聞きます。
以上、勝手に言いたいことをいってすみません。いずれにしても、J-SOXに携わった皆さん本当にお疲れさまでした。
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「のれん」の償却すべきものなのか? |
本日の日経新聞朝刊(企業・財務面)に多額な「のれん」を一括償却(減損)して企業の記事が載っていました。

ご案内のとおり、世界的に見ても「のれん」を規則的に償却しているのは日本の会計基準のみとなっており、IFRSへのコンバージェンスの議論のなかでは、「このまま日本だけ「のれん」の償却を続けていくのか」という点は比較的大きな論点となっていました。コンバージェンスではなく、アドプションということになれば、自ずとその議論もなくなり、世界の他の会計基準同様、「のれん」は非償却ということになります。
ただし、「非償却」だからといって、例えば、買収で巨額に発生した「のれん」が未来永劫そのままの金額で資産計上されるという訳ではありません。当然に資産については毎期(兆候があれば四半期でも)、適切な減損テストを行い、「のれん」としての価値がなくなった、当初存在していた超過収益力がなくなったという判断が下れば、その決算で多額の減損損失が計上される可能性も十分あることに留意しなければなりません。 ある企業を買収する際には、将来の事業計画からの利益や回収キャッシュ・フローを見積り、買収金額を決定することになりますが、試算された企業価値が買収時の純資産を上回り、かつ時価評価結果として適切な資産に配分されなかった残額を超過収益力、すなわち「のれん」として資産計上することになります。 はたして、このように買収した企業・事業がきちんと読み通りの利益やキャッシュ・フローを獲得し、試算した「のれん」は正しい評価であったなる買収案件がどれだけあるのでしょうか?
個人的な感覚ですが、様々な報道や文献を読んでいると、2~3割がいいところではないでしょうか。従って、残りの7~8割のM&Aについては、減損までいくかは別にして「のれん」が当初見込んでいた超過収益力を発揮していないことになります。さらに数年後経た段階で、減損処理されるケースや、結局、自らの買収金額を大幅に下回る金額で他社に売却されるケースなども多いと思われます。 その意味では、日本基準が「のれん」は償却すべきとする「超過収益力も年々その価値が低下していくため経年償却すべき」との論拠も、単に保守的というだけではなく、そのようなM&Aから発生する「のれん」の資産価値としての危うさを何とか会計に反映させる手法として一定の説得力があるような気がします。投資家の立場からも、買収からしばらくは企業が買収の失敗を減損という形では露呈せず、ある時巨額の損失が顕在化するというリスクを負うよりは、毎期一定額の償却をしていってもらいとりあえず5年や10年が経ったら、一旦「危うさ」をはらむ資産はゼロクリアされるという会計の方が安心するかもしれませんね。
一般的な世論や論調としては、 「日本だけが「のれん」の償却にこだわっており、世界の会計の波から取り残されている・・・」的なものが多いような気がします。もし、グローバル市場での資金調達やワールドワイド企業との比較可能性というツールとしての側面を無視することができ、純粋な会計理論的なところで主張できるのであれば、「のれん」を例えば、有形固定資産などの設備投資と同列に扱うこと(取得原価を適切な投資期間に減価償却として配分する会計処理)がそれほど間違った理論とは言えないのではないでしょうか。 さらに、「のれん」とある意味では性質が近い無形固定資産(IFRSでは、例えば、「顧客名簿」なども金額的な見積りが出来れば無形資産として償却対象となります)が償却処理となる一方「のれん」が非償却となることに明確な理論根拠があるとも思えません。
そもそも、簿記や財務会計は歴史的には、その昔の東インド会社の投資家のために、投資した金額いくらの儲けになっているかを報告するツールとしての機能を担うものとして発達したとのことです。根本的な思想は今の会計でも変わらず、投資された金額が、現状どの程度のポジションにあり、投資が終了した際にどの程度の超過金額として回収されたのかを報告する書類として財務諸表があると考えます。 その観点からは、ある投資家は「のれん」を定期的に償却していってもらった方が、現状のポジションを適切に把握できる、それによって投資を継続するか、投資を売却するか判断したいという要求を持っているかもしれません。
すなわち、どちらの処理が会計理論的に絶対正しい、または、誤っているという訳ではなく、その時々の投資家の多数派が、どちらの会計手法を投資決定ツールとして利用したいかという流れによって決まるのでしょう。
まあ、世界的な潮流から日本基準がIFRSをアドプションし、その結果として「のれん」は非償却(減損あり)という会計処理になることは避けようがないので、次に、非償却となる前提でどこに留意すれば良いか論じたいと思います。
最も重要なことは資産計上されている「のれん」に対して、毎期適切な減損テストを実施するということです。 ただし、事実として減損テストや減損損失の計上には、恣意的要素が強いことは理解しておく必要があります。誤解を恐れずに言えば、将来キャッシュ・フローの計画を意図的に弱気なものにしたり、割引率を調整したりすれば、会社の思うところまでは減損損失を計上できる可能性があります。 あまりに保守的で翌期以降の益出しと断定できる逆粉飾を除けば、監査人の方から「もう少し高めに計画を組むべきです」とは言えないのが現実です。 経営者から「経営環境は厳しく、この程度低めに将来計画を組むことは過度に保守的とは考えていない。もしも、強気に出たために来期予算が未達成に終わり、減損を出すはめになったら監査人が責任をとってくれるのか!」という言い方をされれば、それが支離滅裂とは分かっていても、概ね会社の意向に添う形になってしまうという現実があります。 明らかに減損損失を計上すべきところ、会社がそれを固辞する場合には、監査人として「減損処理すべき」と言いやすいんですがね・・・。ただし、そのような状況においても、減損会計の性質が、将来計画や将来予測に大きく依存するために、ギリギリの線であれば、会社側に「当期減損処理するか」または「来期以降の減損処理に回そう」というデシジョンメイクの決定権が与えられているといっても過言ではないと思います。
従って、本日の記事にもありましたが、来期以降の経営環境や株価への影響などを多少勘案しながら、経営者のハンドリングとして、減損損失を計上してV字回復を狙うのか、減損損失を回避して対象企業(事業)の回復を待つのか、などの戦略的財務会計が可能となっていると考えます(もちろん粉飾やルールから逸脱しない範囲での話ですが)。
あと一つ忘れてはいけない重要な点があります。 そもそも資産計上された「のれん」の金額がそれで良いのかという「当初認識」の話です。冒頭参考図のとおり、「のれん」とは、買収金額から簿価または時価純資産をを控除して計算された差額を、さらに含み資産や無形資産に配分し、それでもなお残る金額を指します。ここで厳格な手続がもとめられるのが「時価評価差額や無形資産への配分」処理です。
仮に買収金額と簿価純資産に一義的な差額が100億円発生したとしましょう。 A社はこの100億円を適切なコストかけ、専門評価者を用いることによって、顧客名簿や販売ルートとしての無形価値が50億円あり、これは今後5年間程度は有効な情報であるとの結論を得たとします。 一方、B社はコストと手間を掛けることなく、すべて超過収益力との結論を出しました。 両社とも「のれん」を償却する場合には、10年が妥当と考えています。
日本基準またはIFRSのもとで、それぞれどのような損益インパクトがあるでしょうか?
(日本基準) A社・・・のれん償却費5億円+無形資産償却費10億円=合計15億円 B社・・・のれん償却費10億円 =合計10億円
(IFRS) A社・・・のれん償却費0円+無形資産償却費10億円=合計10億円 B社・・・のれん償却費0円 =合計 0円
上記のように今後アドプションされるIFRSのもとでは、より「無形資産への配分」などの手続の重みが増していくことでしょう。 さらに言えば、日本ではこのような無形価値や知的財産権、ブランド価値などを評価する専門家や機関が欧米に比べかなり手薄な状況にあるとも思われますので、適切な「のれん」を算定するためにも、今後これらのインフラが整備されることも必要ではないでしょうか。
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