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会計と監査実務の最前線
新聞記事など最新の話題で会計的に気になることを公認会計士・監査人の立場から鋭くコメントします!
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ニュース記事から(日航再建有識者会議「年金・高給の検証を」)
先週は、少し長い夏休みをもらっており、久しぶりのブログ更新です。

さて、国土交通省は20日、日本航空の経営改善を支援する有識者会議(座長・杉山武彦一橋大学長)の初会合を開いたとのことです。
ニュース概要はこちら

この有識者会議では、JALが再建に向けて策定する経営改善計画について、有識者、国交省、金融機関等がその内容を検証するようです。
先日のコラムでも少し触れましたが、JALは6月末に政府の指導・監督を受け入れる条件で政投銀とメガバンク3行から総額約1000億円の融資枠を獲得したのに対して、ANAは8月に第三者割当増資で1416億円を調達しており、その財務の健全性に一層の格差が生じている状況です。
今回、民間企業であるJALに対して、監督官庁である国交省が経営改善計画策定に深く関与することは、根拠法令などがなく異例のことといわれています。しかしながら、企業の継続性という意味で時間的に待ったなしという深刻な状況を考慮すれば、これも肯ける対応です。

昨日の会議で議論された経営改善計画の主要論点は以下です。
◎路線整理
◎人件費抑制
◎企業年金改革

このなかで、路線整理については、民間企業として生き残りをかけるうえで赤字路線を廃止・減便していくことはやむを得ないことであり、利用者や今まで便益を享受してきた関係者の理解が得られるような形で説明責任を果たして行かなくてはならないと考えます。仮に、公益企業的に一部の赤字路線について利用者からの非難を逃れることを優先するため路線を存続させた結果、企業自体が存続しなくなるような事態に陥っては、より多くの関係者に負担を強いることになります。ここは不退転の覚悟で、路線のリストラを進めざるを得ないでしょう。

会計士の立場から気になるのは、その他の論点である「人件費抑制」「企業年金改革」です。

JALの損益構造でポイントとなるのは、(1)燃料等の原材料費、(2)航空機機体等の減価償却費、そして、(3)パイロット・客室乗務員・地上職員等の人件費(退職者への年金支給含む)です。

(1)については、全世界的な原油の需給動向など、JAL単独の力では制御しにくい部分もあります(ただし、先物ヘッジをするうえでのデリバティブ方針などは重要です)。
(2)についても、既に過年度で調達した航空機については、規則的な減価償却が行われるため積極的に調整できない部分があります。ただし、今後の投資計画や減損損失計上などによって、将来的な減価償却費の抑制を実現することはできるかもしれません。

その意味で、即効性を期待されているのが、(3)の人件費関連の諸施策です。

ただし、ここにも大きな壁が立ちはだかります。
パイロット等の高給抑制となれば、7つとも8つとも言われている労働組合を説得する必要があります。
また、退職年金の給付率(4.5%)を国債利回り並まで引き下げるために、OB含めて3分の2の同意が必要となります。

これらが実現できるかどうかの鍵は、ズバリ
「過去から脈々と引き継がれる企業体質の変革」
ができるか否かではないでしょうか。

仮に、世間的にこれだけ騒がれ、自分の企業が破綻するかもしれない瀬戸際にいるときに、異常ともいえる数の労働組合がそれぞれの利害を主張し、また、過去に高給待遇を受けたであろうOBらについても、自らの既得権益を守るため年金給付水準の引き下げについて「不同意」するような状況に至れば、まさに企業が継続する上での根幹となる「企業風土」はすでに市場に適用できるレベルを逸脱しているといわざるを得ません。
もしこのような状況であれば、GMやクライスラー同様、一旦法的整理されることはやむを得ないと考えます。

余談ですが、財務面で上記以外にも様々な問題を抱えているにもかかわらず、有識者委員が学者や弁護士等で構成されており、ファイナンスや財務会計に精通した実務家(できれば会計士も加わってもらいたいものです)が少ないように見受けられるのが残念です。

いずれにしても、残された時間はそれほど多くありませんので、今後の動向を注視する必要がありそうです。


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民主党政権になると・・・
本日(7月23日)日経新聞朝刊【経済1】面から
「従業員代表、監査役会に ~公開会社法案、民主が概要~」
という記事についてコメントします。
(記事の概要)
民主党が次期衆院選のマニフェストに盛り込む新法「公開会社法」案の概要が明らかになった。以下はその概要。
①上場会社が対象で、監査役会や監査委員会に従業員代表を起用する
②親会社の株主が子会社役員に対しても損害賠償を求める株主代表訴訟の提起権を認める
③親会社や大口得意先、株式の持ち合い関係にある企業の出身者、取締役の親族などは社外取締役としては認めない
監査役を置く企業では、会計監査人の選任議案や監査報酬の決定権を現在の取締役会から、監査役会に移す
⑤子会社が重要資産を売却するなど重大な意思決定をする際は親会社の株主総会での承認を求める
⑥子会社の取引先などの債権者が、親会社やその取締役に対して損害賠償を請求できるようにする
⑦持株会社などの親会社の株主が事業子会社の取締役などに株主代表訴訟を起こせるようにする


公認会計士として気になったのは④です。この案については、先の6月20日に日本公認会計士協会からも同じような趣旨の文書が法務大臣宛に提出されています(こちらを参照)

政権が民主党に移り、④の案が実現されれば、監査のあり方も大きく変わる可能性があります。日本公認会計士協会が要望したり、民主党がマニフェストに盛り込む背景には、現状、監査を受ける立場である経営者側が、監査する側である会計監査人を選任するだけでなく、その報酬まで決定(交渉の結果)できるねじれ現象の解消があります。

確かに、これが実現すれば監査人の独立性という観点からは一歩前進という気がするのですが、実務の立場からは手放しには喜べない点にも留意する必要があるのではないでしょうか。
それは、そもそも監査役会が、取締役会から独立した立場にあり、意思決定が専門的見地から客観的・的確に実施されるか否かという問題です。

日本の監査役会にありがちな、プロバー従業員及び旧取締役からの監査役横滑りでは、経営者にモノを言う組織とはなり得ません。また、社外監査役についても、お飾り・名誉職の人を人数合わせで置くのではなく、法律・会計等の専門的知見やビジネスに対する洞察を兼ね備えた人材を適切に登用して初めて、監査機能が得られることになります。

最も懸念されるのは、実際に会計監査の現場に直面することがすくない監査役会が、監査に要する必要時間やコストに対する理解がないまま、「監査報酬が高すぎる、別の監査法人含めて入札にしよう!」などという方向にで活気づいてしまい、単に監査報酬という一面で会計監査人が短期間で変更されることがトレンドになれば、監査の品質の低下は避けられないでしょう。

今後ますます監査役会の意義と責任が重くなることは言うまでもないでしょう。

懸念はあるとしても、やはり期待できる点も大きいです。
監査役と会計監査人の関係や提携が密接になれば、会計監査に対する理解や経営陣に対する監視機能が強化され、コーポレート・ガバナンスの向上につながることでしょう。

「いやー、我が社の厳しい業績を見れば、監査報酬の値上げなどもってのほかですよね」と取締役から釘をさされるという、ありがちな監査報酬交渉の光景は減るのでしょうか。。。。

もし、監査役会から同じ趣旨の発言があれば、やはり、「本当に経営者側から独立しているんですか?」と言いたくなりますね。

また、従業員代表の監査役は、実際にどの程度、ガバナンス向上に機能するのか?という気もします。そもそも、経営者から給与をもらっている従業員が経営者にモノを言うことができるのでしょうか??
この点は、監査役の報酬や選任議案についても、現実的に経営陣が決めている状況を鑑みれば、その独立性にクエスチョンがつくのはおわかりだと思います。

ただし、これらの問題提起を含めて、監査やコーポレートガバナンスについて幅広く議論されるのは、間違いなくプラスだと考えます。

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NEC 決算の事業区分を変更(本日の新聞記事から)
本日の日経朝刊(投資・財務2面)にNECが決算における事業セグメントを変更した記事が載っていました。

「NECは16日、決算で売上高や営業損益の状況を公表する事業区分(セグメント)を変更すると発表した。情報・通信を示す「IT・NW(ネットワーク)ソリューション」に含まれていた事業を、システム構築・運用の「ITサービス」や、通信を中心とした「ネットワークシステム」など4区分に変更する。
 30日に発表する4~6月期決算から適用する。従来の4区分から7区分に増える。新セグメントの「ITプロダクト」はサーバーや汎用コンピューター、「社会インフラ」は放送システムや人工衛星などの事業を含む。パソコンや携帯電話の「パーソナルソリューション」、半導体・電子部品の「エレクトロンデバイス」は従来と大きな変更はない。
 NECは今年4月に組織を改編し、各部門の担当ごとにセグメントを表示することにした。投資家にとっては事業ごとの細かな営業状況を把握しやすくなりそうだ。」


NECの場合、直近の組織変更がきっかけとなり、事業セグメントの実際の切り口と管理会計のみならず、財務会計も統一したようです。
記事には上記文章の他、変更前と変更後の比較図表も載っており、これを見ると、
変更前の「IT・NWソリューション」セグメントで見ると、営業利益が1249億円から1250億円へ前期比+1億円の状況が開示されています。
これだけの情報で投資判断をするなら、「IT・NWソリューションセグメントは順調に推移しているな。。。」となってしまいます。

ところが、変更後は、「IT・NWソリューション」セグメントが、以下の4つのセグメントに分割されています。
×ITサービス 営業利益 560⇒500
×ITプロダクト     218⇒140 
○ネットワークシステム 420⇒480
◎社会インフラ     82⇒130

上記によれば情報量が増えるため、以下の推測ができるようになります。
・システム構築・運用やそれに伴うサーバー、汎用コンピューターを扱う「ITサービス」・「ITプロダクト」は景気の低迷を受け、顧客の設備投資が相当抑えられた結果、営業利益がかなり悪化している
・案外、通信の分野は景気の波を受けにくい
・社会インフラ分野は今日成長しており、NECの得意分野かもしれない

今回NECは、組織変更に伴いセグメントを見直したとのことですが、日本基準においても2011年3月期からセグメント情報に関して、「マネジメント・アプローチ」に基づく事業セグメントの見直しが要求されることになります。これは、IFRSへのコンバージェンス項目の一つとして適用されるもので、簡単に言えば、経営者が各事業の経営意思決定や業績管理のために、実際に社内的で使用している事業区分によって、外部開示するというものです。

一般的には、現状の開示セグメントが、より細分化される方向で考えられており、利害関係者にとっては、情報量が増大するためウェルカムとされています。

一方、企業にとっては、販売価格の決定や事業拡大・撤退などの意思決定に関わる、いわば「機密情報」をあからさまにするようなものなので、果たしてどのレベルまで細分化すべきかという問題があります。例えば、販売先から「おたくの○○事業はこんなに儲かっていたんですか、もう少し売価を下げてくださいよ」という声が寄せられることも増えるかもしれませんから。

拡大解釈かもしれませんが、この結果、売値を下げざるをえず、営業利益が減ってしまえば、企業価値が下がりますので、投資家的にはマイナスです。従って、投資家の立場は、投資判断に必要な情報は欲しいものの、会社の利益にマイナスな影響を及ぼすのは困る・・・・といった微妙な心理でしょうか。

いずれにせよ、強制適用まで2年を切っている現時点では、各社とも事業セグメントのどのように見直すのか、監査人も含めて議論している(これからする)と思われます。

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ドラクエ発売!
ドラクエ9 2
先週の11日になりますが、ドラゴンクエスト9が発売されましたね(記事はこちら)。
私自身は子供の頃に初代ドラゴンクエストで少し遊んだ程度で、最近はゲームで遊ぶこともなく、あまり馴染みがなかったのですが、昨今、市場規模が低迷気味のゲーム業界としては久々のメガヒットを狙った新作とのことでしたので関心を持ちました。

ドラクエ9については、ご承知のとおり、3度の発売延期を経て(記事はこちら)、ようやく7月11日の発売にこぎ着けたことも、逆に購買層にとっては、「そこまで作り込んだのであれば期待できる」と注目が高まったのかもしれません(同社の経営・内部管理体制の評価は下げたのでしょうが)。

ただし、気になるのは、その価格設定です。記事のなかでは「価格も5年近く前に出した前作(9,240円)に比べて大幅に安い5,980円に設定し、これまで以上の爆発的なヒットを狙う」とありましたが、いくら景気が悪いとはいえ、果たして、この価格設定で何年もかけて開発した投資を回収できるのでしょうか?

1世代シリーズが進むとどの程度のコンテンツ開発コスト(主に人件費でしょうか)が上昇するのかは定かではありませんが、コストが同じとしても前作の2倍程度の本数は売らないといけないのではないでしょうか。

ゲーム・玩具業界といえば、最近でも業界での生き残りをかけ、M&Aが活発化しています。

有名なところでは、ドラクエの発売元であるスクウェア・エニックス・ホールディングスバンダイナムコホールディングス(以下、「スクエニ」)、セガサミーホールディングスタカラトミーなどがあります。また、最近ではテクモに対して、スクエニが経営統合の交渉を進めていましたが、TOBの条件等が折り合わず、コーエーがテクモのホワイトナイトとして登場し、コーエーテクモホールディングスとなった事案がありました。
スクエニの有価証券報告書を見て気付きましたが、私に取ってはゲームセンターなどで懐かしい名前であったタイトー社もスクエニの連結子会社になっていました。

上記のとおり、ここ数年で経営統合が相次ぎ、いまや単独で事業展開している企業の方が少ない状況です(この中でも有力なのが、バイオハザードやモンスターハントなどのヒットシリーズを抱えるカプコンですね)。

これほど業界の再編が進む要因の主たる理由は次のとおりです。
◎一部のヒット作に支えられているものの、全体的には日本におけるゲーム・コンテンツ業界の市場規模が低迷していることに加え、ますます少子化が進むことにより将来の市場規模の縮小が懸念されていること
◎これに対して、欧米のゲーム市場規模は大きく、
◎コンテンツ開発費の高騰に伴う投資のハイリスク化が進み、開発~リリース~投資回収のサイクルが長期化するなか、単独企業の資金規模では事業の継続が困難になってきていること
◎単なるゲーム(オフライン)販売ではなく、対戦型・協力型オンラインゲームや携帯コンテンツの開発、または、ロイヤリティー・版権・映像化・書籍化などのマルチメディア戦略など事業や経営の多角化が求められるため企業規模の拡大によってシナジー効果が得られやすいこと

さて、スクエニ社の直近2009年3月期の有価証券報告書(ここからDLできます)を眺めていて気になったポイントは次のとおりです。

1.最近5年の連結業績推移サマリー
2.主たる連結子会社は?
3.事業の種類別セグメント情報(特に営業利益率に着目!)
4.ゲーム業界特有の会計処理(開発仕掛り中の案件やソフトウェアの在庫の評価は?)
5.貸借対照表の特徴(流動・固定分類など)
6.損益計算書の特徴(売上原価・販管費の比率など)
7.キャッシュ・フローの状況と手許キャッシュの水準
8.新会計基準「工事契約に関する会計基準」(平成21年4月1日以後開始する事業年度から強制適用)の影響は?
9.英国Eidos社の買収による国際市場への本格参入

それぞれ簡単に解説します。

1.タイトーを連結子会社化したH18/3期に1244億円の売上を計上(前期738億円)。
H19/3期に過去最高売上の1634億円を計上以降、1475億円⇒1356億円と売上減少傾向。
経常利益についても、過去最高売上のH19/3の262億円を頂点として、188億円⇒112億円と減少しています。
なお、キャッシュ残高は(H18/3)752億円⇒(H19/3)998億円⇒(H20/3)1114億円⇒ (H21/3)1118億円と安定推移しています。

2.主要な連結子会社は、?スクウェア・エニックス(売上343億円、経常利益23億円)、?タイトー(売上581億円、経常損失▲52億円)となっています。
収益性は厳しいものの、アミューズメント施設(ゲームセンターなど)事業を主として行うタイトーの売上が、依然として連結売上のほぼ半分を占めているというのは意外でした。

3.事業の種類別セグメントは以下の6つに分かれています。
 (1)ゲーム事業 (直近の売上&営業利益:363億円&41億円)
 (2)オンラインゲーム事業    (同上:106億円&30億円)
 (3)モバイルコンテンツ事業   (同上: 70億円&36億円)
 (4)出版事業          (同上:129億円&35億円)
 (5)AM(アミューズメント)事業 (同上:582億円&▲9億円)
 (6)その他事業         (同上:123億円&32億円)

(1)のゲーム事業は経常利益率が11.2%となっており、H20/3期の21.2%(売上415億円、営業利益88億円)に比べると、直近期はヒット作に恵まれず苦戦した状況が分かります。本来は、ここにドラクエ9の売上と利益が計上される予定だったようです。このドラクエの売上及び利益は、当期(H22/3期)にどの程度計上されるかが注目されています。

また、注目すべきは(3)モバイルコンテンツ事業の営業利益率の高さ(51%) と(4)出版事業の売上高の伸び率(前年比16%)です。もはや、PCや単体ゲーム機向けの販売だけでは収益リスクが高いため、携帯や出版等の多角化事業によって安定的な収益基盤を構築しているというところが窺えます。
(5)AM事業はしばらく苦戦が予想されそうです。

個人的にオンラインゲームというものをしたことがないのですが・・・
こんな記事を見ると、少し怖くて尻込みしてしまいます。

次回は財務諸表分析の部分を解説したいと思います。

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エルピーダとはどんな会社か?(最終回)
昨日に引き続き、エルピーダの有価証券報告書を見てみましょう。
同社の状況を把握するために重視したいポイントは以下のとおりでした。

1.貸借対照表の負債の部にて有利子負債の増加額を体感する
2.損益計算書の支払利息の増減を確認する
3.連結附属明細表の「社債明細表」「借入金明細表」を確認する
4.有利子負債に関する注記箇所(担保差入状況や財務制限条項など)を確認する
5.連結注記で気になるところがないかレビューする

昨日の記事では1~3まで終わりましたので、今回は4以降です。
その前にぜひ押さえておきたいキーワードとして「財務制限条項(またはコベナンツ)」を理解しましょう。景気が悪くなり、金融機関の貸出姿勢が硬化してくるといろいろな場面で目にしたり、耳にしたりする機会が増えます。
私の友人の会計士も、某メーカーにCFOとして転職した際に「何が辛かったって、資金繰りだよ。特にメインバンクからの締め付け。リファイナンス(借り換え)の度に、コベナンツの条件が厳しくなるし。。。監査をしていた頃はそこまで考えなかったけど、コベナンツが発動しないように、決算対策したくなる経営者の気持ちが痛いほど分かったよ・・・」と言っていたのを思い出します。
まあ、多額の資金を貸し付ける金融機関の立場からすれば、融資引き揚げもちらつかせながら一定の条件を付すことで、経営に緊張感を持ってもらおうという趣旨も分からないのではないのですが。

少し前ですが話題となったところでは、ソフトバンクがボーダフォンを多額の借入(ノンリコースローン)をもって買収した際に、銀行団の協調融資契約には様々な財務制限条項が付されており、現在でもこの条項に抵触しないよう気を使っていると思われます。【参照記事はこちら】

前置きが長くなってしまいましたが、ここからが本題です!

さて、上記ポイントの「4.有利子負債に関する注記箇所」に関連して、エルピーダの財務制限条項はどんなものが確認してみましょう。

有価証券報告書の77ページに注記がありますが、大きくは次の2つの条項が付されているようです。
1.純資産維持条項
2.財務レバレッジ制限条項

このうち、対象借入金額が大きいのが、「1.純資産維持条項」です。
2,282億円を対象とする純資産維持条項は
「各年度の決算期及び第2四半期の末日における当社連結貸借対照表における純資産の部の金額を前年同期比75%以上の維持すること」となっています。

これに照らして、実際の決算金額を見てみましょう。
2009年3月末と前年同期の2008年3月末の連結純資産の部の金額です。
A(2009/3)2,664億円  B(2008/3)3,478億円

A÷B=76.6%!!

かなりギリギリです。
B×75%=2,609億円なので、なんと55億円しか余裕がなかったのではないでしょうか。


最後に「5.連結注記で気になるところ」を確認してみましょう。
細かく言えばいろいろあるのですが誌面の都合もあるので3つほど。

(1)有価証券報告書71ページの(追加情報)です。
注記を要約すると、第4四半期から特定の設備について耐用年数を延ばす変更を行い、営業損失が約55億円減少(利益増加)したというものです。

 会計・監査の業界にいる方であれば分かると思いますが、固定資産の耐用年数の変更は余程の合理的な理由がない限り、実行しにくく、監査上も認めにくい性質のものです。しかも、技術革新や製品ライフサイクルの短縮に伴い保守的に耐用年数を短くし、減価償却を増加(利益減少)させる場合は、まだ正当な理由を見いだしやすいと考えます。
 しかしながら、この事案のように耐用年数をのばし、結果として、50億円を超える利益を出すというのはかなり勇気がいる会計処理ではないでしょうか。さらに、なぜこの時期に変更するのかという疑問に対して明確な根拠を示すのが大変なので「年度決算と四半期決算の首尾一貫性も考慮して、翌期首から変更」とするのが落としどころですが、期の途中、しかも本決算を控えた第4四半期から変更というのも少し大胆な気がします。
 
 注記によれば、見積り変更の理由として「DRAMの量産が本格的に開始してから5年が経過したこと、広島工場のキャパシティ拡大に係る投資が一巡したこと、並びに、平成20年10月にE300Fabでの受託ファンダリビジネスを本格的にスタートしたことを契機に耐用年数の見直しを実施した結果、当初予定による残存耐用年数と現在以降の経済的使用予測可能期間との乖離が明らかである有形固定資産が認められました。・・・」と記載されています。
つまり、当初、経済的に5年程度の稼働を考えていた設備が、ある時見直したら「10年使えそうだ」ということになり、耐用年数を延ばすことによって、毎年の減価償却を減らすというものです。経営者の考え方如何かなと思いますが、当初の支出額をその時の見積りに基づいて、継続的・規則的に原価配分してきたものを、経営環境が変わったからといって、あえて延ばす(=投資回収計算を下方修正するようもの)のは保守的な会計からすればいかがなものでしょうか。仮に、「10年使えそうだ」と思っても経営環境が良好ならば、5年で償却を終え、残りの5年は償却負担なしの状況で価格競争しようと思うのが自然ですよね。従って、私の目には、この会計処理は「この苦しい財政状態だからこそ、不本意ながら、せざるを得なかった処理」と映ってしまいました。まあ、監査人が正当な処理と判断して監査報告書を提出しているのであれば、これ以上言うことはありませんが・・・。

しかし、この見積りの変更によって純資産が増加した金額が55億円(税務上の欠損会社なので、税効果なしと仮定)ですか、、、

ん?、上記4.をもう一度見て下さい。
確か、2,200億円を超える借入金に付された財務制限条項に抵触するか否かの余裕は55億円・・・ということは、この見積りの変更がなければ・・・


微妙な感じです。
あまり、これ以上深くコメントしない方がいいかな。

この他にも気になる注記をご参考まで。
(2)有価証券報告書78ページの「重要な係争案件」
引当がほぼ倍増しています。訴訟和解引当の見積りは、かなりジャッジメンタルなもの(会社の恣意性が入りやすい部分)なので、きちんと見積りされていることを願いましょう。

(3)有価証券報告書106ページ「○○購入契約」
私自身あまり業界に精通していないのですが、このように多額に長期で条件フィックスしている契約があるとは驚きでした。その分、安い単価でユーティリティーや原材料を調達するので、操業度が高い時はいいのですが、操業度が落ちると極端な話、「必要でないエネルギー」も買わなければならないという状況は、財政的にも負担になりますし、エコロジーにも反するような・・・。業界的には一般的なのか分かりませんが、ハイリスク・ハイリターンな取引のような気がします。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★ 
 以上、3回にわたり、エルピーダという会社の直近の有価証券報告書を眺めてきましたが、何となくこの会社が抱えている苦悩が分かった頂けたのではないでしょうか。

 私自身、この会社を見るのは初めてで何の予備知識もありません(別に株を持っている訳でもありませんし、利害関係は全くありません)でしたが、公表されている有価証券報告書や会社ホームページ、その他インターネットの記事等を参照して、公的資金注入先の実情が少しでも分かるならという気持ちで見てみました。
 それと、自分も含めて関係者がこれだけ苦労している有価証券報告書には、各社の貴重な情報が盛り沢山!ですよということを少しでも分かって欲しいと思い、書いてみました。

最後に同社の財務状況云々というところを一旦離れて、今回の公的資金注入についてコメントしたいと思います。

 いろいろ世論の是非はあると思いますが、特定の産業において、世界のメーカーと戦っている企業については、ある程度、国のサポートは必要なのではという感も抱きました。ご承知のとおり、半導体産業の競争相手である、台湾・韓国・中国などの財閥系メーカーは、かなり前から国策によって相当手厚くバックアップを受けています(例えば、日本に比べ明らかに低い法人税率など)。もちろん、それだけではなく、企業努力があったのは認めますが、同じ土俵とは言えないのではないでしょうか。技術革新の激しい分野で次の覇権を取るためには、企業間の競争を超えて、国家間での戦いが行われているといっても過言ではないと考えます(これは移転価格税制にも言えることです)。
 これらの企業と対等に戦うために、日本の製造業は従業員からも一定の理解を得ながら(負担を強いながら)、ここまで頑張っていると思います。

グローバルな経営の裏に、国家戦略としても一定のビジョンが求められることは言うまでもありません。頑張れニッポン!

以上、長々とすみませんでした。お付き合い頂きありがとうございました。

機会があれば、また別の会社も見てみたいと思います。
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プロフィール

公認会計士 若松 弘之

Author:公認会計士 若松 弘之
某大手監査法人で監査の最前線に立ち10数年・・・
そこで感じた問題意識を実践するために2008年10月に独立開業しました。現在は、公認会計士若松弘之事務所の代表として、監査だけではない会計関係全般の業務を行っています。
http://www.wakamatsu-cpa.com/

会計や監査にまつわる問題点やコメントを自由な立場から深く切り込んで積極的に発信していこうと思っています。
応援よろしくお願いします。

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