CREとIFRSの関係(その2) |
(その1)をご覧になっていない方は、ぜひこちらを参照下さい。
本日は前回の(その1)に引き続き、(その2)を書きたいと思いますが、その前に少し前になりますが、日経新聞で2009年4月14日に掲載された企業不動産に関する記事の抜粋を紹介しておきたいと思います。 「物件有効活用、企業に迫る あの会社は不動産の含み損益がどれだけあるか――。2010年3月期末の決算からは、こんな投資家の疑問もなくなりそうだ。オフィスビルなど賃貸不動産の時価を開示する新しい会計ルールが導入されるからだ。あまり使わないビルを抱えていては含み損がかさむため、企業は不動産の有効活用を迫られる。 「投資利回りをよく考えた判断が重要になるだろう」。飯野海運の不動産事業担当者は、今期末に導入が予定される賃貸不動産の時価開示の影響についてこう話す。同社は東京・内幸町の飯野ビルを中心に不動産事業も展開。不動産価格は従来の会計ルールでは取得価格に基づく原価を開示するだけで済んだ。だが今期末からは将来の賃料を基に計算した価値などを時価として開示する必要がある。飯野海運が保有する土地・建物の総額は原価ベースで約五百二十億円。だが時価ではビルの稼働率が低いと評価が下がる。都内の一等地にビルを持つだけに、周辺物件よりも含み益が少ないと将来、株主から追及される可能性もある。こうした事情から「既存の物件を最も有効に使うよう事業を見直したい」(同)。三月から飯野ビルの建て替えを始め、新会計基準への対応で先手を打った形だ。 日本の会計ルールを決める企業会計基準委員会は2010年3月期末の決算企業から、賃貸不動産などを対象に時価を注記で開示する会計ルールを導入した。時価開示が主流の国際会計基準との差を埋める「会計の共通化」の一環だ。賃貸ビルや遊休不動産が対象となる。貸借対照表や損益計算書での計上額は従来通り原価ベースだが、注記で賃貸ビルの含み損益を投資家に周知させる狙いだ。 東京急行電鉄やサッポロホールディングスなど不動産事業を展開する事業会社は多い。“副業”の不動産で含み損を抱えると「株主への説明責任が問われる」(大手電鉄会社)。新会計ルールは不動産の売却や事業の見直しを加速させそうだ。 一方、不動産会社は不動産が本業であり、新会計ルールについては「導入に関係なく、不動産の価値向上を従来通りやる」(羽広元和テーオーシー常務)という声が多い。企業の保有不動産の有効利用を促す「企業不動産(CRE)マネジメントビジネス」を売り込む機会とみる向きも強い。 三菱地所の東京・丸の内を中心とした賃貸ビルは原価ベースで2兆2600億円前後とみられる。「時価ベースでは一兆円強の含み益はある」(大手証券アナリスト)。株式市場での注目指標となりそうだ。」
賃貸等不動産の時価開示については、2010年3月期(当期)の期末にて各社に開示が強制されます。既に第1四半期は終了していますので、対応に残された時間は案外少ないのかも知れません。
それでは本題に戻ります。 前回、CRE戦略について概要と会計士の立場からのコメントを述べましたので、今回は、さらにIFRS、または、会計基準の内容に踏み込んでみたいと思います。 CRE(Corporate Real Estate:企業不動産)に関連する会計基準として主要なものは以下が挙げられます。 1. 減損会計基準 2. 棚卸資産の評価に関する会計基準 3. リース会計基準 4. 賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準(以下、賃貸等不動産時価開示基準) 5. 資産除去債務に関する会計基準(以下、資産除去債務基準) 6. 企業結合・事業分離等会計基準 7. 特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針
上記以外にも、固定資産全般の会計処理に関係する基準などもあります。 このうち一般事業会社にとって特に財務インパクトがあると考えられるものは、1、4、5あたりと思われます。 1の減損会計については、既に適用済みであり、この2009年3月期決算においても多くの企業が多額の減損損失を計上しました。
企業不動産という意味では、主たる事業に活用されているコア不動産と、主たる事業からは外れているノンコア不動産に分けられます。従来、業績が堅調なうちは、ノンコア不動産に区分されている、遊休不動産(バブル期に著しい高値で投資目的で購入した土地等が中心)について、正味売却可能価額(時価)の著しい下落が発生したために減損損失を計上するケースが多かったと思われます。 しかし、直近の決算では、主たる事業が不振となり、事業グループが将来わたって回収するキャッシュ・フロー(事業収入+資産の売却価値)の合計が、期末の簿価を下回ることによって発生した「収益性の低下による減損損失」が多数計上されています。 別のコラムにも書きましたが、一般的に減損損失の計上は、計上後の決算において減価償却の負担を減らすことになり、収益性の改善につながると言えます。 ただし、過剰資産の根本原因が土地(事業グループにおいて、主要な資産が「土地」となるケース)であった場合には、土地自体は非償却性資産であるため損切りにとどまることになり、収益性の改善にはあまり寄与しません。 従って、一口に減損損失といえども、収益に直接貢献する工場建物や機械、製造設備を中心とする過大簿価を適正水準まで切り下げた結果なのか、主に土地に対して過剰な投資を行ったものを実勢時価まで切り下げた結果なのかは良く見極める必要があるでしょう。
以上、減損会計については、2005年4月1日以後開始事業年度から強制適用となっており、3~4期間が経過していますので、実務もこなれてきたところでしょう。
そうなると問題は、IFRSとのコンバージェンスの一環で、今後、日本基準において適用される賃貸等不動産時価開示基準(2010年3月期末から強制適用)と資産除去債務基準(2011年3月期末から強制適用)が実務上留意すべき会計基準となります。 現在、上場企業では、両会計基準の適用が自社の財務諸表や開示に対して、どの程度のインパクトがあるのかリサーチしている段階かと思われます。
~今回のコラムで力説したいのは、以下の点です~ ◎IFRSのもとでは貸借対照表(IFRSでは財政状態計算書)を構成する資産及び負債の公正価値が重視される。特に、不動産に関連した会計基準の適用は時に財務諸表に重要なインパクトを及ぼすこともあるため要注意しなければならない。
◎しかしながら、例えば、賃貸等不動産時価開示基準と資産除去債務基準などは、不動産に関連した周辺知識もさることながら、企業グループを網羅した不動産保有情報の共有化が必須となる。ということは、どんなに財務・経理部門の責任者・担当者が会計基準を勉強し、必要な会計処理を理解したとしても、不動産関連の情報を適切に集約できなければ適用誤りが発生するおそれがある。
◎すなわち、財務・経理部門と、不動産を所管する総務・管財部門との連携が相当重要となる。さらに各々、専門分野以外の不動産知識、または、財務会計知識を最低限は理解し、目線を合わせたところで、総力戦に臨むという姿勢が大事である。
さらにこれらのファンクションを統括し、不動産の有効活用を実践レベルに落とし込む部署として、CRE部門が設置することも検討の余地があるのではないでしょうか。
ちなみに、欧米においては一般の事業会社においても、CRE戦略に対する関心が高く、多くの企業でCRE部門またはCRE専門子会社を設けているとの報告もあります。 今回はここまでとして、次回は今後適用となる「賃貸等不動産時価開示基準」と「資産除去債務基準」をより深くコメントしたいと思います。
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