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会計と監査実務の最前線
新聞記事など最新の話題で会計的に気になることを公認会計士・監査人の立場から鋭くコメントします!
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のれんの償却(日経記事より)
本日の日経記事に関連して、のれんの会計処理について考えたいと思います。
まずは、記事の抜粋から。
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【2012/09/11 朝刊 投資・財務面】
楽天、Koboのソフトなど3年で60億円償却

 楽天はカナダの電子書籍大手「Kobo」を1月に買収したことに伴い「のれん」の償却とは切り分けて、2012年12月期から14年12月期までの3年間で計60億円程度、ソフトウエアなどの無形固定資産を均等償却する。年20億円程度、連結営業利益を押し下げ要因になる。今期については上期に約10億円を計上済み。

 楽天はKoboを約240億円で買収。当初「のれん」に計上したなかに、その後の精査で償却期間がのれんと異なるソフトウエアなどの無形固定資産が含まれることが判明し、別途、短期間で償却することにした。ソフトウエアなどの償却は原則3年で、のれん(原則20年以内)より短い。
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上記の記事のみでは、分からないことが数点あります。
①買収総額240億円のうち、いわゆる、投資額と時価純資産の差はいくらだったのか(これを、当初「のれん」としたようです)?
②差のうち、いくらが当初「のれん」から「ソフトウェア」等の無形固定資産に配分されたのか(記事からは60億円程度とも読めますが)?
③残った「のれん」は何年で償却しているのか?

詳細は四半期報告書または有価証券報告書等で明らかになるでしょうが、ここでは推測で。
当初「のれん」のうち、結構大きな金額が、「のれん」よりも償却年数の短い「ソフトウェア」等に配分された場合に、記事の通り、のれん償却費<ソフトウェア償却費 となりますので、償却期間にわたる単年度損益は悪化要因となります。ただし、楽天の過去のM&Aに関する会計処理のスタンスを推し量ると、将来収益やキャッシュ・フローに不確実性を伴う要因については、なるべく早く償却を終え、償却終了後の利益拡大をアピールしたいのではないでしょうか。

もちろん、のれんの償却年数などで、実態を逸脱した「過度に保守的」な年数設定は認められません。少し前の、ITバブル全盛期には、M&Aで発生した多額の「のれん」を一括償却するという荒技もありましたが、その後、よほどの事情がない限り、これは認められていないと思います。

その意味では、「のれん」を早期に償却したい企業にとっては、今回の楽天事例のように、当初測定した差し引き「のれん」をその後、じっくり精査して、より多くの短期間償却対象無形資産に配分するということが多く出てくるような気がします。

ただし、それには、日本においても、無形資産の評価(Valuation)実務や実績が醸成し、客観的な形が保証できることが求められます。欧米に比べて、PPA(Purchase Price Allocation)実務が定着していない日本では、恣意的会計処理のリスクが残ります。
一方、日本基準では「のれん」償却があるからこそ、「どうせ償却負担があるのだから、いっそのこと早期負担を」という考えが出るのであり、「そもそも、償却負担がないIFRSにいってしまえ」という別の視点もあるかもしれません。しかしながら、「のれん償却が負担だからIFRSに」という安易な考え方も、IFRSにおける「のれん」の減損の厳しさを考えると得策だとも思えません。

Written by Hiroyuki Wakamatsu(公認会計士若松弘之事務所
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書評「本当に使える IFRS適用ガイド」
 日本でのIFRS適用時期の議論は依然として、推進派と反対派の間でかみ合わない議論が展開しているようですが、世の中的には、オリンパスと大王製紙の会計スキャンダルが人々の関心を集めています。
オリンパスの第三者委員会報告では、金融商品に関しての巨額の含み損の顕在化を恐れて「飛ばし」スキームに踏み切った点や、負債から資本への振替の際に、公正価値測定を経た上での振替えが義務付けられ、まもなく簿価振替えができなくなるというタイミングぎりぎりで不正処理を行った点などが明らかになっており、この点からは、会計基準が厳格化・透明化(時価評価)されることが、不正を働いている会社にとって一定のプレッシャーになることが改めて浮き彫りになったような気がします。
 したがって、IFRSの強制適用の会計理論的な是非はあるものの、新しい基準を導入することにより、企業には今までの負の遺産たる会計処理を見直す機会を与え、かつ、不正処理を行っている企業にはイエロー(レッド)カードを出すチャンスになると言えるのではないでしょうか。
 今回の事案によって、「社外取締役の義務付け」などに代表されるように、企業のコンプライアンスを更に強化しようという政治的な動きが加速するのは間違いないでしょうし、場合によっては、ヨーロッパに追随するように、監査法人のローテーション制度が真剣に議論されるのではないでしょうか。私が監査法人に入った当初からのジレンマである「クライアントから報酬をもらっていながら、真の独立性を堅持できるか」とう監査制度の核心にメスが入るのは時間の問題かもしれません。それはそれで、いいことなのでしょう。
 さて、前置きが長くなりましたが、IFRS関連でお勧めしたい書籍があります。
タイミング的には、今はIFRSという海原は「凪の状態」ですが、そういう状況であればこそ、一歩冷静な観点で読める本です。テクニカルで難解な技術論ではなく、J-SOX対応の二の舞にならないため、どのような心の準備と体制を築けばいいかという意味で非常に参考になる本です。機会があれば是非、手に取ってみてください。


ムリなく・ムダなく・スピーディー! 本当に使える IFRS適用ガイド
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IFRSの功罪
会計業界問わず、巷ではIFRSの強制適用が延期になるとか、適用範囲が縮小されるとか、いろいろ物議を醸し出していますね。

延期を「ウェルカム、待ってました!」という企業と「いまさら延期と言われても、もうプロジェクトが進んでいるから後戻りはできない!」という企業に二極化するだけであり、それはとどのつまり、完全にドメスティックであり海外投資家もいないような企業と、事業をグローバル展開しておりIFRSのアドプションは少なからずメリットがある企業に分かれるのは当然のことでしょう。

何となく考えもなく、全面的に強制適用しようとしていた状況にくらべるとメリハリがついて良かったのではないでしょうか。
IFRS自体の会計基準としての完成度や、日本企業への適応度、公正価値偏重の行き過ぎなど、諌めるところはあることは間違いないでしょうが、一方でどの会計基準を物差しを使うかの是非はあるにせよ、今や会計も経済も、国対国のグローバルな戦争になっている以上、国益を意識したところでの国家としての会計・税務戦略は持つべきでしょう。その観点では、欧米または韓国・台湾と比較して、後手に回っている感は否めません。

一言だけ、IFRSの実務に携わっている者として言えることは、IFRSの業務には日本の会計実務にない新しい解釈が必要であり、それは即座に答えが見つかるものではないが、会計士としては知的好奇心をくすぐられる部分であり、案外、ネガティブな話ではないということです。私自身は、監査法人を離れて約3年ですが、純粋な会計論議で、監査法人ときちんとしたディスカッションができるのは、JーSOXの時にはなかった「やりがい」につながると思っています。

Written by Hiroyuki Wakamatsu(公認会計士若松弘之事務所
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IFRS適用の高い壁!
本日は、これからIFRS適用に向けてプロジェクトを立ち上げようという企業や関係者に向けて、実務的な部分で直面する壁についてコメントしたいと思います(案外、ボリュームがあるので複数回に分けるかもしれません)。

現在、私は外部コンサルの立場で、とあるIFRS導入プロジェクトに関与していますが、その中で感じている壁があります。これはある程度どの企業にも当てはまることなのでは、と思います。

それは、J-SOXプロジェクトとIFRSプロジェクトの性質の差に起因した人的リソースの問題です。

双方のプロジェクトとも、まずは専任者のいるプロジェクトチーム(以下、PT)を設置するところからスタートし、そのプロジェクトのフェーズ進捗管理が重要とされています。J-SOXについては、3月決算会社はこの6月末までに導入初年度の監査報告が終わっており、一段落ついています。以前の記事に書きましたが、最後は何となく「消化試合」のようになってしまいましたが、その中でも順調に進んだ企業においては適切なPTが存在し、経営者や内部統制委員会(または取締役)及び監査人と適宜コミュニケーションをとれていたと感じています。
では、J-SOXにおいてどのような人材がPT構成員になっていたかといえば、比較的多かったのは内部監査室や監査部の人員ではないでしょうか。また、以前、本社財務や経理部門を経験し、その後、事業部アカウンティング責任者や子会社の間接部門トップとして幅広い業務を横断的にこなせる人材が抜擢されるケースもあったと思います。

ここで大事なポイントは、J-SOXプロジェクトの構成員になりうる人材は比較的人選の余地が多かったということです。
監査部や内部監査室の人員は比較的融通が効いた(通常業務として内部監査がものすごく忙しく、人員リソースもめちゃくちゃタイトだ、という話はあまり聞かないでは)ため、J-SOXに専任することができたとも言えます。
誤解を恐れずにいうならば、J-SOXプロジェクトがこれらの部署の仕事を作る一方、この方々もJ-SOXプロジェクトに従事することで、初めて社内でのプレゼンスを発揮する機会が与えられた面もあります。では、J-SOXプロジェクトが一段落着いた今、これらのPTの方々の行き場は・・・という点が気になりますが、それはさておきとしましょう。

では、IFRSプロジェクトにおいては,この点いかがでしょうか?
IFRSプロジェクトをマネージできる社内の人材として必要な要件は、ざっと考えただけでも以下のとおりです。
・財務会計に高度な専門知識があること
・J-GAAPとIFRSの違いをある程度理解していること(ギャップ分析を感覚的に把握できること)
・海外事業部や海外子会社とのやり取りを含め一定の英語力があること
・実際のビジネスや事業状況を理解しており、経営的な観点で物事を捉えられる人
・監査人と適切なディスカッションができること(理論を押し通すだけでなく、政治的かつ実務的な着地点を見いだす力)


しかも、四半期報告制度が適用されている今となっては年中決算という状況にもなっていますので、日常の経理・決算業務に忙殺されておらず、IFRSプロジェクトに相応の時間を割けることが求められます。

どうでしょうか?少し考えただけでも、そんな人材が、おいそれと見つかることはまず期待できないでしょう。
仮に上記の要件を満たす有能な人材は、経理・決算業務に忙殺されているのが世の常ですから、その人を無理矢理現状の業務から引きはがし、IFRS専任とするのはかなり勇気のいることではないでしょうか。


そのため、実務的な落としどころとしては、マネジメントがその有能な人材を何とか説得し、通常業務を多少軽減したうえで、IFRSプロジェクト兼任になってもらうというところです。
また、足りない人材リソースを外部のコンサルや派遣で補えるかというと、確かにJ-SOXの時は、そのような外部人員がフローチャートやリスクマトリクス3点セットなどをある程度、機械的に文書化する作業を分担(または丸投げ)することができました。

しかしながら、「原則主義」のもとで事業の実態に精通した人材による深い検討と判断が求められるIFRSプロジェクトにおいては、簡単に外部の人員がサポートできる状況にはありません。基本的には主体的に動くのは、その企業の会計処理や会計方針と事業実態を十分理解した社内リソースであり、あくまで外部の人間はそれを側面援護射撃するにとどまるような気がします。

かなり規模の大きいグローバルな企業においても、IFRSプロジェクトを適切にマネジメントできる専任者を確保することは容易ではないといえるのではないでしょうか。
ましてや中堅規模の上場企業においては、コスト削減の大号令のもとで間接部隊を減らされ、通常の経理・決算業務だけでも青息吐息の状況に加え、このうえIFRS専任者を出すことなど非現実的とも言えます。

そこで。。。。今から間に合う施策としては、多少時間を割いて、社内でIFRSトレーニングを繰り返し実施することによって、上記の要件を満たすPT人員候補を少しでも多く育成する土壌を作ることではないでしょうか。個人的見解ですが、やはり何といってもIFRSに対する深い理解と知識が、実際にJ-GAAPからIFRSに移行する段においては重要なアシストになると思われます(実際にコンサルをしていて、ひしひしと感じます)。

まだ、本番まで3年程度は残されているので、社内人材の育成は、今からでも十分効果があると考えます。

CREとIFRSの関係(その1)
最近、「CRE」という言葉を新聞や雑誌で目にする機会が増えたのではないでしょうか?(本日の日経新聞にも見開きで広告記事が載っていました)
CREとはCorporate Real Estateの略語で日本語にすると「企業不動産」という意味で、企業が所有・賃借する不動産全般を指します。
 
 統計では日本の不動産総額2,300兆円のうち、CREは総額490兆円にのぼるともいわれています。
 これまでは、一般事業会社が所有する不動産のなかでも、コア事業で使用する自社所有の不動産については、その投資効果や減損の要否などの面で意識されることが多かったと思われます。 
 しかしながら、ノンコア事業や投資事業として保有される不動産については、とりあえず自社所有でコストが発生しない(実は機会損失というコストが発生していますが)ため継続所有しているだけで、必ずしも有効活用されていないケースも多いのではないでしょうか。
 昨今、企業を取り巻く経営環境が厳しくなり、低迷したコア事業の収益を補うべくノンコア事業の収益性向上が求められています。これに資する重要な取り組みとして、企業不動産を再度洗い直し、有効活用されていないものについては、売却から賃借に変更したり、事業の効率化のために拠点を統合したりするなどのCRE戦略が重要となっているのです。

 CRE戦略については、国土交通省が主体となり、「合理的なCRE戦略の推進に関する研究会」などを運営しながら企業にCRE戦略の認識と実行を促す取り組みを行っています。また、大手不動産会社、金融機関、大学、シンクタンク等からも人材を集め、産学官協同でプロジェクトを推進しています。これらの研究成果物として同研究会から「CRE戦略を実践するためのガイドライン」及び「手引き」が公表されています。
http://www.mlit.go.jp/report/press/land03_hh_000042.html

当該報告書を見た範囲で、会計士の立場から感じたことは以下のとおりです。

1. 企業の貸借対照表に占める不動産の割合は比較的高いにもかかわらず、これら不動産を網羅的に管理・把握し、有効活用の度合いをモニタリングしている企業は案外少ないのかもしれない。

2. 不動産の有効活用という話は、従前から、不動産会社や不動産コンサルティング会社から事業会社にアプローチされていると思われため、その意味では目新しい話ではない。しかしながら、今、CREが注目されている(注目されるべき)のは、単に不動産の話、すなわち、企業でいうところの総務・管財担当者どまりの話ではなく、企業全体の財務戦略や株主・投資家に対する説明責任(Investor Relation)に関わるものとして、財務担当役員やCFOはもとより、社長やCEOも無視できない話になってきている。

3. 上記の流れを加速させるものとして、無視できないのが、国際会計基準(IFRS)へのコンバージェンス、または、アドプションの一環として、日本の会計基準においても、近年、不動産の貸借対照表価額、時価評価、開示等に重要な影響を与える新たな会計基準が適用されている(今後も適用されていく)ことである。

4. 上場企業では適用が始まってきているJ-SOX(財務報告にかかる内部統制の評価および監査制度)やCSR(企業の社会的責任)という観点からも、企業を取り巻くステークホルダーからその企業における不動産戦略が注視されてきている。

 これらを踏まえると、従来の感覚で、「うちの不動産はそれなりの投資効率で運用されているし、時価の下落もそれほど激しくないから、とりたてて何かやることはない」
程度に考えていたり、企業が所有する不動産について有効活用すべき重要な経営資源としての認識を欠く行動は、許されない状況になっていると思われます。

 また、CRE戦略は、必ずしも多数のステークホルダーを抱える上場企業だけに必要なものではなく、日本の企業数の9割以上を占める中小企業においても重要名ものと位置づけられています。特に、これら中小企業の大半は資本と経営とが一致している同族企業です。これらの同族企業の事業承継においては、不動産等の財産をいかに承継させるかという資産承継対策が重要なポイントになっています。

 ここで大切なのは、企業の不動産は個人資産の延長ではなく、事業に組み込まれているものであるため、相続等によって経営者が変わったとしても事業に影響を与えない企業資産として管理することだと考えます。例えば、相続がおこるたびに納税資金の問題が発生し、事業活用されている不動産を一部売却しなければならない状況は避ける必要があります。
 すなわち、企業不動産については、企業経営の重要な根幹をなるべき資産ですので、将来にわたって企業の浮き沈みに左右されることのないように、CRE戦略を実践して適切に管理・運営することが有用となります。

次回は、IFRSとCREの関係について、より掘り下げてみたいと思います。



プロフィール

公認会計士 若松 弘之

Author:公認会計士 若松 弘之
某大手監査法人で監査の最前線に立ち10数年・・・
そこで感じた問題意識を実践するために2008年10月に独立開業しました。現在は、公認会計士若松弘之事務所の代表として、監査だけではない会計関係全般の業務を行っています。
http://www.wakamatsu-cpa.com/

会計や監査にまつわる問題点やコメントを自由な立場から深く切り込んで積極的に発信していこうと思っています。
応援よろしくお願いします。

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