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会計と監査実務の最前線
新聞記事など最新の話題で会計的に気になることを公認会計士・監査人の立場から鋭くコメントします!
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本日の新聞記事から(日経)
「有価証券報告書 総会前提出が可能に」(2009年6月26日 日経朝刊 投資・財務14面)
(記事内容)
「上場企業の情報開示制度に対して、見直しを求める議論が活発になっている。金融商品取引法と会社法で分かれている情報開示を整理・統合するのが柱。今後、国際会計基準の導入で財務情報の開示内容が大きく変わると予想され、情報開示の効率化が必要になってい
 金融審議会(首相の諮問機関)のスタディグループが17日まとめた報告書。この中で、財務情報を掲載する有価証券報告書について「株主総会への報告事項にすべき」と明記した。有価証券報告書は定時株主総会後に提出されるため、株主は総会前に見ることはできない。総会で報告・承認した計算書類などを有価証券報告書に添付するルールがあるためだ。有価証券報告書には詳細な財務情報が掲載されており、総会前に閲覧可能にすべきだとの意見は多い。
 金融審の報告書を受けて金融庁が内閣府令を改正し、来年にも企業は総会前に有価証券報告書を提出できるようになる見通しだ。今年から義務化される内部統制報告書も総会前に提出できるようになる。企業の任意で義務付けられるわけではないが、一部の企業が前倒し提出する見込み。大手運用会社の日興アセットマネジメントは「有価証券報告書で株式持ち合いや取引状況の詳細がわかれば、社外取締役の選任議案などの議決権行使に役立てることができる」(株式運用部)と評価する。
 金商法に基づく有価証券報告書の財務諸表と会社法の計算書類の実質一元化を求める声もある。日本公認会計士協会は3日に金融庁に提出した要望書で、開示項目が不要に重複する問題が生じていると指摘し、「財務情報の実質的な一元化を検討してほしい」と提言。具体的には有価証券報告書の財務諸表をつくれば、会社法上の計算書類が作成されたものとみなす措置を求めている。上場企業の間では、二つの決算書を作成する負担の軽減を求める声が以前からある。エーザイ幹部は「一元化すれば、業務の効率化につながり、開示情報の質も向上する」と話す。もっとも、一元化には会社法の改正が必要になる。金商法を所管する金融庁は「財務情報の一本化は合理的」(企業開示課)と前向きだが、会社法所管の法務省は「今すぐに検討することは考えていない」(民事局)と温度差がある。
 国内でも連結決算における国際会計基準の導入が視野に入りつつある。これを踏まえ、法務省などには有価証券報告書は連結に軸足を置き、計算書類は単独主体と位置づけて両者をすみ分けたほうがいいとの判断がある。情報開示制度の見直しは国際基準の導入とセットで本格化することになりそうだ。」


ということで、投資家、会社、監査人の立場から、有価証券報告書の総会前提出がどのような影響を及ぼすのか考えてみました。

まずは、投資家、その他利害関係者の立場です。
こちらについては新聞記事にもあるとおり、株主総会での議案の可否を判断したり、会社に質問したりする場合に、情報が多いに越したことはありません。株主総会の招集通知に添付されてくる事業報告、計算書類等、または、決算短信によっても基本的な財務情報は把握できますが、やはり相対的な情報量としては有価証券報告書が勝っています。投資判断を行う立場からは少しでも情報が多い方が望ましいのはいうまでもありません。

個人的見解ですが、決算発表時に開示される決算短信がかなりボリュームが多い資料となっており、財務情報(有価証券報告書における「経理の状況」以下)の面ではそれほど有報と見劣りしないので、有報が総会前提出されることによって、何か劇的に情報量が増えるという感じではないですね。ただし、有報がXBRL対応になれば、同業他社比較や投資先の時系列比較などのベンチマーキングが容易になるという恩典がありますので、この点からは投資家や証券アナリストから歓迎されるのではないでしょうか。

次に会社の立場です。
実務的には、決算発表時(決算日後30日~45日)に決算短信を作成しているので、この時点で有報ドラフトのベースはできています。これに会社法の事業報告や計算書類等の情報を合わせて、さらに詳細な注記情報や明細表を追加して、有報のドラフトが完成します。多くの企業は、これをプロネクサスや宝印刷などの証券印刷会社に渡して、有報原稿作成、校正、監査法人のチェックなどを経て、株主総会終了とともに金融庁(財務局)にEDINET送信することになります。
仮に、総会の1週間前に有報をファイナル提出しようとすれば、それぞれの作業が1週間づつ前倒しになることになりますが、現状、会社の担当者には、決算発表から会社法事業報告・計算書類の作成が終わった段階で有報ドラフト提出までに、一息つける時間がありますが、この「一息つける時間」が少なくなる犠牲を払えば、それほど深刻な影響は与えないのではないでしょうか。ただし、今回の決算ではその頃に監査人による内部統制監査の最終チェックを受けている実態もありますので、そのような楽観的発言は適切ではないかもしれません。

最後に監査人の立場です。
これも基本的には会社の立場と同様、有報チェックの時期が早まるという影響が出ます。ただし、決算短信をかなりきちんと検討しておけば、この有報チェックで修正箇所があまり発見されずに手間がかからないでしょう。
しかし、実際は、決算短信については監査人のチェック責任はなく、会社が独自に提出するものと位置付けられています。従って、とりあえず決算発表に間に合うよう徹夜して決算短信を作って提出し、あとは、後日の監査人による有報チェックで大きな間違いが発覚しないよう天に祈る(笑)という状況も多いと思われます(経験上、そうです)。
従って、監査人にとっては、有報チェックが開示のミスを発見する最終砦となっていますので、これが仮に1週間早まることは心理的なプレッシャーになるのではないでしょうか。

しかし、有報の早期提出は監査人にとって、もっと重要な意味があるのです。

それは、「後発事象の検討期間が短縮される」ということです。
これは、ある意味会社にも同じことが言えるのですが、後発事象の有無及び開示の要否の検討が重要な監査手続の一つで、時に監査意見を表明するうえで重要な懸念材料にもなるため、監査人にとっての意味が大きいと感じています。
現行制度上(2009年3月期決算から可能だったはずですが)、理論的には株主総会終了を待たずとも、監査人の監査報告書を提出することはできますが、あまり事例はないと思います。
今後、会社の提出自体が早期化すれば、否が応にも監査人の監査報告書も早期提出になりますので、実質的にも後発事象の検討期間が短縮されることになります。これは監査人の作業的負担と心理的負担を下げることになります。
決算発表から有報提出までは長ければ、2ヶ月近くあり、この間に開示対象となるほどの重要な後発事象が発生することも結構あります。しかも、ゴーンイング・コンサーンに影響与える資金繰りの問題などが発生してしまった場合は、監査意見自体の問題になるため大変です。

上記3者の立場を要約すると、会社の負担が若干増えますが、全体を通した期間配分の問題なので、その他の投資家、監査人の立場を含めると、有報の早期提出は歓迎すべきものと思います。

実は、この新聞記事の重要ポイントは、業界関係者であれば念願の「金商法・会社法の開示書類の一本化」の議論が前進しているということでしょう。
一本化されれば、情報量において勝る有報に収斂していくことになるでしょうから、縄張り的には浸食される法務省(計算書類)が検討に難色を示しているようです。
記事の結びにもありますが、完全に金商法に一本化する訳ではなく、有報=連結、計算書類=個別 という落としどころでも負担は減ると思います。

ここは大所高所から関係者の負担減少を実現させるため法務省には是非歩み寄ってもらいたいものです。
それによって不利益を被る人はいないような気がしますので。


プロフィール

公認会計士 若松 弘之

Author:公認会計士 若松 弘之
某大手監査法人で監査の最前線に立ち10数年・・・
そこで感じた問題意識を実践するために2008年10月に独立開業しました。現在は、公認会計士若松弘之事務所の代表として、監査だけではない会計関係全般の業務を行っています。
http://www.wakamatsu-cpa.com/

会計や監査にまつわる問題点やコメントを自由な立場から深く切り込んで積極的に発信していこうと思っています。
応援よろしくお願いします。

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