本日の新聞記事から(日経) |
「企業の減価償却費7%減」(2009年6月17日 日経新聞 財務面)
2010年3月期は主要企業の間で減価償却費の減少が相次ぎ、野村証券調べでは今期の減価償却費は20兆5500億円と対前期比7%の減少と見込まれている。 なお、売上高が前期比12%減(52兆2900億円)と大幅に落ち込むのに対して、経常利益の減益幅は16%の減少にとどまり、減価償却費の減少が利益底上げ要因となる。
当期(2010年3月期)は、下半期以降どの程度経営環境や景気が回復するかによりますが、現状の見通しでは前期以上に企業業績の悪化が予想されます(前期は第3四半期以降が相当の業績悪化となったが、第1四半期までは比較的堅調であった)。 その経営環境のなかで少しでも利益を計上(または損失を圧縮)するためにほとんどの企業が固定費の圧縮に努めています。通常、利益を増やすためには、売上・収益の増大か、費用の減少をいずれか(または両方)を達成する必要がありますが、昨今の経済情勢においては、一部の業種を除き、なかなか売上の増大は難しい状況です。 従って、企業が取りうる戦略として費用削減(コストカット)が優先されることになります。 費用削減のなかで最も即効性のある施策は、人員リストラすなわち人件費の削減です。 既に前期(2009年3月期)までにこの施策を実施し、決算に織り込んでいる企業も相当数に上っています。前期に具体的な人員リストラ計画の実行まで間に合わなかった企業は当期にその費用が計上されてくると思われます。
人件費削減で留意すべきポイントは、 「企業の成長戦略にブレーキをかける縮小均衡の麻酔薬であってはならない」という点です。確かに人員を整理することによって人件費が大幅に削減することができれば、営業利益率は上昇し、収益力が増したように見えます。しかしながら、企業の収益拡大にとって有用な人材まで流出したり、人員リストラが企業全体のモチベーションの低下につながってしまったりしては、中長期的には競争力の低下につながり、企業価値の縮小を招く結果になってしまいます。よって、人員リストラは単に「人件費削減目標○億円」達成のために頭数を合わせるのではなく、企業・本人にとって、それが最善なのかも吟味しながら慎重に行う必要があるのではないでしょうか。昨今、グループ会社で経営手腕を発揮した方が、本社の社長に抜擢されるというケースもありますので、配置転換によって本人の隠れた才能やモチベーションを引き出し、企業全体で新たな人材活性化につなげることも検討する価値はあると考えます。
さて、本日の本題の「減価償却費の減少」についてです。 これは、単純に減価償却費が減少し、利益が底上げされ企業業績にプラス要因となるとして、喜べるものではありません。その減少要因や内容を検討し、メリット・デメリットを十分理解しておく必要があります。 減価償却費の減少要因としては、新聞記事にありましたが以下が代表例です。
1.設備投資の抑制による減価償却費の減少 設備等の固定資産の新規取得を前期に比べ抑えることで相対的な減価償却費が減少する。特に、機械装置等に定率法を採用している企業では時の経過とともに償却水準が逓減するため、新規設備増加が少なくなれば、減価償却費は減少する。
2.減損損失の計上による減価償却費の減少 前期以前に資産計上していた減価償却資産について減損損失を計上。減損損失計上後は、切り下げられた簿価を基準として減価償却計算が行われるため、減損損失計上以前に比べて償却費が大幅に減少する(図を参照)。

ここで留意すべきは、減価償却費が大幅に減少する企業において、どちらの影響が大きいかという点です。
2については、既に前期において損失計上されており、一般に当期以降はマイナス要素は発生しません。前期において収益性が低下した過剰設備の簿価を切り下げることによって、当期以降は市場の販売価格や原価率の実態に即した原価配分となり、結果として適正粗利を確保することができる状態になっていると考えればよいでしょう。
一方、1については要注意です。ご承知のとおり、設備投資の抑制は、減価償却費の低減による利益の底上げとキャッシュフローの抑制による手許流動性の確保に効いてきます。しかしながら、企業継続のためには、常に将来の金のなる木への設備投資や研究開発は必須であり、競争力の維持・確保につながるものです。過剰な設備投資を適正水準に見直すという主旨での設備投資抑制であれば、理にかなっていますが、本来、現場的には新たな設備投資または研究開発投資が必要と感じているにもかかわらず、短期的な視野に基づく利益確保のために、これが抑制されるのであれば、本末転倒ということになってしまいます。
むしろ、新規設備投資について定率法を適用することで、利益は圧縮されるが、タックスメリットを享受し、なるべく多くのキャッシュを手許に残し、これを更なる研究開発投資に分配するという積極的な財務戦略を展開する企業もあります。 乱暴な言い方をすれば、減価償却は過去に支出したキャッシュ総額をどの会計期間にどの程度配分するかという損益計算の手法にすぎません。一義的には、計算方法や計上方法によって、キャッシュが増えたり、減ったりする訳ではありません(前述のとおり、税務面まで考えれば、早期に償却損金算入する方がキャッシュにおいて有利)。
結論としては、 「減価償却費が減少して利益が底上げされた」という事実を判断する意味では、人件費同様、それが中長期的に企業競争力や成長戦略にマイナス要素となるものでないかどうかを十分吟味する必要があるでしょう。
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