CREとIFRSの関係(その1) |
最近、「CRE」という言葉を新聞や雑誌で目にする機会が増えたのではないでしょうか?(本日の日経新聞にも見開きで広告記事が載っていました) CREとはCorporate Real Estateの略語で日本語にすると「企業不動産」という意味で、企業が所有・賃借する不動産全般を指します。 統計では日本の不動産総額2,300兆円のうち、CREは総額490兆円にのぼるともいわれています。 これまでは、一般事業会社が所有する不動産のなかでも、コア事業で使用する自社所有の不動産については、その投資効果や減損の要否などの面で意識されることが多かったと思われます。 しかしながら、ノンコア事業や投資事業として保有される不動産については、とりあえず自社所有でコストが発生しない(実は機会損失というコストが発生していますが)ため継続所有しているだけで、必ずしも有効活用されていないケースも多いのではないでしょうか。 昨今、企業を取り巻く経営環境が厳しくなり、低迷したコア事業の収益を補うべくノンコア事業の収益性向上が求められています。これに資する重要な取り組みとして、企業不動産を再度洗い直し、有効活用されていないものについては、売却から賃借に変更したり、事業の効率化のために拠点を統合したりするなどのCRE戦略が重要となっているのです。
CRE戦略については、国土交通省が主体となり、「合理的なCRE戦略の推進に関する研究会」などを運営しながら企業にCRE戦略の認識と実行を促す取り組みを行っています。また、大手不動産会社、金融機関、大学、シンクタンク等からも人材を集め、産学官協同でプロジェクトを推進しています。これらの研究成果物として同研究会から「CRE戦略を実践するためのガイドライン」及び「手引き」が公表されています。 http://www.mlit.go.jp/report/press/land03_hh_000042.html
当該報告書を見た範囲で、会計士の立場から感じたことは以下のとおりです。
1. 企業の貸借対照表に占める不動産の割合は比較的高いにもかかわらず、これら不動産を網羅的に管理・把握し、有効活用の度合いをモニタリングしている企業は案外少ないのかもしれない。
2. 不動産の有効活用という話は、従前から、不動産会社や不動産コンサルティング会社から事業会社にアプローチされていると思われため、その意味では目新しい話ではない。しかしながら、今、CREが注目されている(注目されるべき)のは、単に不動産の話、すなわち、企業でいうところの総務・管財担当者どまりの話ではなく、企業全体の財務戦略や株主・投資家に対する説明責任(Investor Relation)に関わるものとして、財務担当役員やCFOはもとより、社長やCEOも無視できない話になってきている。
3. 上記の流れを加速させるものとして、無視できないのが、国際会計基準(IFRS)へのコンバージェンス、または、アドプションの一環として、日本の会計基準においても、近年、不動産の貸借対照表価額、時価評価、開示等に重要な影響を与える新たな会計基準が適用されている(今後も適用されていく)ことである。
4. 上場企業では適用が始まってきているJ-SOX(財務報告にかかる内部統制の評価および監査制度)やCSR(企業の社会的責任)という観点からも、企業を取り巻くステークホルダーからその企業における不動産戦略が注視されてきている。
これらを踏まえると、従来の感覚で、「うちの不動産はそれなりの投資効率で運用されているし、時価の下落もそれほど激しくないから、とりたてて何かやることはない」 程度に考えていたり、企業が所有する不動産について有効活用すべき重要な経営資源としての認識を欠く行動は、許されない状況になっていると思われます。
また、CRE戦略は、必ずしも多数のステークホルダーを抱える上場企業だけに必要なものではなく、日本の企業数の9割以上を占める中小企業においても重要名ものと位置づけられています。特に、これら中小企業の大半は資本と経営とが一致している同族企業です。これらの同族企業の事業承継においては、不動産等の財産をいかに承継させるかという資産承継対策が重要なポイントになっています。
ここで大切なのは、企業の不動産は個人資産の延長ではなく、事業に組み込まれているものであるため、相続等によって経営者が変わったとしても事業に影響を与えない企業資産として管理することだと考えます。例えば、相続がおこるたびに納税資金の問題が発生し、事業活用されている不動産を一部売却しなければならない状況は避ける必要があります。 すなわち、企業不動産については、企業経営の重要な根幹をなるべき資産ですので、将来にわたって企業の浮き沈みに左右されることのないように、CRE戦略を実践して適切に管理・運営することが有用となります。
次回は、IFRSとCREの関係について、より掘り下げてみたいと思います。
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