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会計と監査実務の最前線
新聞記事など最新の話題で会計的に気になることを公認会計士・監査人の立場から鋭くコメントします!
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内部統制報告書が続々と提出
『「重要な欠陥」の開示企業が3社、内部統制報告書の提出は250社超に』(ITプロ記事から)

という記事がありました(同じ内容の記事が6月23日日本経済新聞(朝刊)の投資・財務1〔16面〕にも載っています)。
 
 この記事を見たときに率直に感じたのは、「意外に重要な欠陥がある企業が少ない。やはり、何となく横並びで、余程の突発事項がない限り、Clean Opinion(限定事項のない監査意見)となるんだな。」という感覚です。
 比率では一概に判断できないでしょうが、重要な欠陥が、250社のうち3社程度(1.2%)とはあまりにも少ないのではないでしょうか・・・。決算短信の訂正の状況などを鑑みると、財務報告に係る内部統制、特に、財務報告プロセスに重大な問題を抱えている企業はもっと多いのではと思ってしまいます。
 内部統制監査においては最終的に会計監査人が、会社や監査人が発見した問題やリスクの影響度合いを集計し、質的及び量的観点から、監査意見を表明します。
 なお、米国SOXでは、内部統制の不備を「重要な欠陥」「重大な不備」「軽微な不備」の3つに区分していますが、財務報告への影響等についての評価手続がより複雑なものになっているとの批判があり、日本(J-SOX)では、「重要な欠陥」と「不備」の2つに区分しています。
 従って、監査人としては、発見された内部統制上の問題点が「不備」にとどまるのか否かの専門家としての判断を迫られることになります。
 この判断は特定のクライアントや監査人の主観であってはまずいので、通常、大手監査法人の中ではJ-SOXの監査意見表明において、難しい判断が迫られる問題が発生した場合、法人内で意見レベルを調整する審査機関で協議しているものと考えます。ただし、監査法人内では概ね問題と監査意見のレベル調整は行われていると思いますが、監査法人間でどの程度、すり合わせが行われているかは不明です。
 
 ただし、会社側に立てば、「A監査法人では、このレベルで「重大な欠陥」となったのに、B監査法人ではセーフとなっているのではないか」など、不公平感が出るのは好ましいことではないので、ある程度は監査法人間でアンオフィシャルな意見交換が行われているものと推測します。

 また、今回J-SOXが想定どおり(?)に何となく横並びの監査意見になったのは、いろいろな状況の積上げ結果と思われますが、以下が大きく作用したのではないでしょうか。

①昨年来の金融危機の発生により、むしろゴーイング・コンサーンなどの開示の方重要であり、内部統制どころではなくなった。実際に、どんなに内部統制のしっかり整備・運用しても、企業が存続しなければ意味がない。内部統制の膨大なコストや時間をかけて、事業の収益性を圧迫するくらいなら、多少問題があっても構わないなどの声もあり、利害関係者にとってもそれほど情報の有用性が高くないという認識が出てしまった。

②金融庁が導入にあたりお手本にした(あくまで、金融庁側は「お手本などにはしていない」とのスタンスですが・・・)US-SOXにおいては、適用初年度に重要な欠陥(Material Weakness)を公表した企業が16%に及んだ(出典:あずさ監査法人記事)ものの、その手間とコストを鑑みると、その効果が疑問視されており、2年目、3年目においては重要な欠陥を公表する企業数は着実に(?)減少しています(2年目10%→3年目8%)。これは、内部統制の改善整備の結果とも考えられますが、関係者の間に「初年度は「重要な欠陥」にしたようだが、世論も考えれば、このくらいの問題は「重要な欠陥」としなくてもいいよね」という動きがあったのではないでしょうか。

 J-SOXは、まさにこのようなアメリカでの反省状況の中で適用となりました。さらに金融庁から昨年来、異例ともいえる監査法人に対するプレッシャー「内部統制報告制度に関する11の誤解」などが公表されたことが作用し、多少「甘口」の監査意見判断基準に落ち着いたというところでしょう。
 個人的見解としても、会計上大きなスキャンダルとなる粉飾は経営者不正ですので、内部統制の頂点にたつマネジメント層がこれを無視(Over Ride)してしまえば、防ぎようがないというのが実感です(「内部統制の限界」といわれています)。
 J-SOXが効果を発揮するのは、トップマネジメントを除く一定の責任者や担当者レベルの誤謬(間違い)を企業自らで発見できるようにする点でしょう。これもそれなりに必要なことでしょうが、果たして、外部監査制度までいれて多くの時間とコストをかけて、会社の規模を考えずに義務付けるようなことなのでしょうか・・・。グローバルで見ても、US-SOXに多大コストがかかるアメリカのマーケットを選ばず、そこまでの規制がないEUのマーケットに進出することを選択する企業も多くなっています。結果的に、これがIFRS統一の潮流につながったのであれば、瓢箪から駒で良かったのかも知れませんね。

 現状、業界ではJ-SOXという「お祭り」が少しづつ沈静化しており、7月以降になると、なんとなく「祭りの後」の余韻に浸る感じかなと思います。そう考えると、経営者にとって見れば、「この結果に行き着くために、こんなにお金も時間もかけたのか・・・」という忸怩たる思いが残りそうです。
 
 従って、今こそ、J-SOXが残してくれたもの(2年目以降ありますが・・・)の意味を前向きに考える必要があります!
 
 先日の記事でも書きましたが、IFRSのグローバル経営管理体制につなげる意味での内部統制の意義を見出すことができれば、かけた時間とコストは決して無駄ではなかった、ということになるのではないでしょうか。


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プロフィール

公認会計士 若松 弘之

Author:公認会計士 若松 弘之
某大手監査法人で監査の最前線に立ち10数年・・・
そこで感じた問題意識を実践するために2008年10月に独立開業しました。現在は、公認会計士若松弘之事務所の代表として、監査だけではない会計関係全般の業務を行っています。
http://www.wakamatsu-cpa.com/

会計や監査にまつわる問題点やコメントを自由な立場から深く切り込んで積極的に発信していこうと思っています。
応援よろしくお願いします。

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