日本航空はどうなるのか? |
今週は株主総会のピークですが、金融不況のあおりを受け、収益が大幅に悪化した結果、赤字決算⇒無配 という企業も多いと思います。 また、単年度の赤字だけで無配とするのは、株価の影響を考えると好ましくないので、頑張って、前年並の配当もしくは多少の減配にとどめる企業もあるでしょう。事業投資に必要な資金を内部留保し、事業に再投資するのがいいのか、はたまた、キャピタルロスを被った株主に対して、少しでもインカムゲインという形で還元するのがいいのか、これはケースバイケースなので、マネジメントが慎重に判断し、株主に納得いく説明ができるかどうかだと思います。
さて、23日に実施された日本航空の株主総会の様子が報じられていましたので、少しコメントしたいと思います。
同社株主にとってみれば無配は仕方ないまでも(そう思っていない人も多いとは思いますが・・・)、将来の再建策が具体的なイメージとして見えない状況で現在の経営陣に任せていいのか、という感覚が強いのではないでしょうか。さりとて、株主総会で動議が出され、現経営陣の全員退陣が可決されることは現実的にはないでしょうから、せめて総会の席上で厳しい質問をするにとどまることでしょう。
私見ですが、日本航空は半国営企業で、今までのJASとの合併などの生い立ちを考慮すれば、経営陣が変わるだけでは如何ともしがたい体質となっているのではないでしょうか(カルロス・ゴーン社長のような人がくれば別かも知れませんが)。また、公共性の高い交通機関という点からも、単に赤字路線を廃止していけばいい、では済まされない特殊性もあると考えます。その一方、同じような公共交通機関としての性格を担っているJRについてはうまく民営化し、利益もきちんと追求しながら経営を行っているように思えますので、日本航空もあながち、それができないということはないでしょう。
しかしながら、会計士の立場で財務的に分析すると大きな問題だけで以下が考えられます(それ以外にも問題山積みかもしれませんが・・・)。
◎過大な有利子負債 利率が僅かあがるだけで、収益拡大やコスト削減で頑張って稼いだ営業利益が吹っ飛ぶ危険性がある。 既に国(日本政策投資銀行など)が退っ引きならないところまで貸し込んでいますので、いきなり貸しはがしということはありえませんが、それがまた経営陣や会社風土として、親方日の丸意識を高め、危機感の欠如につながっているのかなと思います。 普通の企業であれば、財務制限条項に震え上がり、まずは自らの地を流して融資の継続を懇願するところです。
◎年金債務の負担 こればかりは中長期的な視点が考えなければなりませんが、現行の給付水準を維持するようであれば、経営破綻まっしぐらです。さすがにそれは分かっているようで、当期において規定の改定による給付水準の引き下げを行い、利益方向の過去勤務債務を特別利益として一括で880億円計上するようです(記事はこちら)。ただし、既に年金を受給しているOBの賛同が得られるかどうかというところです。万一、これがOBらの反対で実現しないようなことがあれば、なす術無しという感じです。 なお、この給付水準の切り下げで年金問題が解決する訳ではなく、むしろ会計の立場からは現在貸借対照表に計上されている退職給付引当金やディスクローズされている年金債務情報が他の企業並みに実勢を反映したものなのかというところです。他の企業に比べて明らかに高い割引率について、当期末決算(2010年3月期)から強制適用となる改定退職給付会計基準によって、割引率をそれまでの過去5年程度の平均(実務的にはこれによって、2.0%や2.5%賭する企業もある)から、期末日のスポットレートとすることが義務付けられます。10%インパクトルール(変動に重要性がなければ割引率の見直しを反映しない)という妥協案が残ったため、どの程度実質的な影響が出てくるか分かりませんが、日航ほどの高い割引率(2009年3月期決算短信によると1.7%~2.8%(!)。予想では、ボリューム的に2.8%を適用している退職給付債務も多いのではないでしょうか)の場合、影響は大きそうです。 3月にかけて深刻な爆弾になるかもしれません。
◎多すぎる労働組合と高すぎる人件費 言うまでもありませんが、航空事業では、主要なコストは、機体・設備の減価償却費・維持費、燃料代、そして人件費です。減価償却費は中長期的な視点での投資計画から過去のキャッシュ・アウト・フローが期間費用として配分されるだけですから、例えば、減損損失の計上により、以後の会計上の利益は好転させることはできても営業キャッシュ・フローに直接効いてくる話ではありません。また、燃料代は原油相場に影響を受けるため、自らの努力では如何ともしがたい部分が多いでしょう。デリバティブや燃費を改善した機体への投資などの施策はあるでしょうが、即効性を期待することは難しいと思います。 そうなると、即効性の観点から期待されるのは人件費のリストラです。 それでなくとも、パイロットを中心としたサラリーの高さは著しく、一般企業から見ると、「そんなことをやっていて経営が苦しいとは・・・」という感じを抱くことでしょう。GMやクライスラーのケースとも似ています。 社内にいると、それまでもらっていた給与水準を下げるということは人間の特性を考えても、予想以上に大変なことだとは思いますが、会社が経営破綻する否かの瀬戸際ともなれば、その聖域に手をつけざるを得ないでしょう。 また、金額的な影響もさることながら、人件費のリストラをやることによって、社内の危機意識を高めるという効果もあると思われます。
しかしながら・・・・日航の場合、ここで大きな壁にぶつかります。 なんと、日航には会社側1・反会社側7の合計8もの労働組合があるのです! ・日本航空労働組合 ・日本航空機長組合 ・日本航空先任航空機関士組合 ・日本航空乗員組合 ・日本航空ジャパン労働組合 ・日本航空ジャパン乗員組合 ・日本航空キャビンクルーユニオン ・JAL労働組合(会社側) これらが互いの立場で待遇改善などを求めて、時には強行にストライキを辞さない形で活動をしているのです。経営陣がこれらを一枚岩にして会社のために一丸になろう!と説得するのは容易ではないことが分かると思います。
雇用者・労働者の主張をいう機関として労働組合の意義は重要と考えますが、やはり会社あっての労働者なのではないでしょうか。
◎隠れ負債や業界独特の会計慣行という不信感 日航の財務諸表については、いろいろな場面で不信感を煽るグレーな会計処理が取りざたされていますが、未だに根深いものがあります。 固定資産の減価償却方法の変更、リース債務のオンバランス問題や機材関連報償費の会計処理など・・・ 少し過激な分析ですが、この書籍を読むと、「この会社の投資家になるのはちょっと。。。」という感を抱いてしまいます。

なお、余談ですが日航といえば、山崎豊子さん原作の「沈まぬ太陽」が思い出されます。私も夢中で読んだ記憶が残っています。この秋、渡辺謙さん主演で、待望の映画化です! 公式ホームページはこちら
参考資料:日本航空の2009年3月期決算短信
スポンサーサイト
|
|
|
|
|
|