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会計と監査実務の最前線
新聞記事など最新の話題で会計的に気になることを公認会計士・監査人の立場から鋭くコメントします!
07 | 2009/08 | 09
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これだけは読んでおきたい報告書(その2)
前回に引き続き、日本公認会計士協会から先日公表された会計制度委員会研究報告第13号
『我が国の収益認識に関する研究報告(中間報告) -IAS第18号「収益」に照らした考察-』
に関するコメントです。

148ページからなる報告書について、一通り目を通してみての感想です。
一言で言うならば「これが強制適用されると、実務界ではかなり大変なことになる」というものです。

一例を挙げると、かなりニッチな部分ですが、オンラインゲームにおけるユーザーへのポイント販売。
ポイントを購入したユーザーはオンラインゲームのなかで、仮想上の物品を購入したり利用したりすることになります。企業によって会計処理は異なるかもしれませんが、通常実務では、ユーザーにポイントを販売した時点で、その対価を一括収益認識し、後は「ユーザーがオンラインゲームのなかで好きに使ってね」というスタンスかと思われます。オンラインゲームを提供する企業としては、ユーザーが仮想空間でポイントを自由に利用できる状態にした時点で、役務の提供が完了したと考えるのではないでしょうか。

ところが、本報告では以下のような取扱となっています。
「・・・提供する役務とは、ユーザーがポイントと交換に取得したオンライン・ゲーム内で利用可能な仮想上の物品を、オンライン・ゲームの運営を通じてユーザーに利用させることであると考えられる。このように考えた場合、本事例においては、ユーザーによる当該仮想上の物品の利用に応じて役務の提供が完了すると考えられる。このため、オンライン・ゲーム内におけるポイントの販売収入は、ユーザーによる当該仮想上の物品の利用に応じて「役務の提供の完了」要件を満たしたものと考え、ユーザーによる当該仮想上の物品の見積総利用量に占める実際利用量の比率により収益を認識することが原則的な会計処理であると考えられる。なお、利用量の見積りが困難である場合には、利用期間を適切に見積もった上で当該利用期間にわたって定額で収益を認識する処理も認められると考えられる。
 ユーザーがゲーム内においてポイントを利用して仮想上の物品を購入した時点で収益を認識する実務は、本事例のようにビジネスが比較的新しいモデルであり、会計慣行として確立したものがなく、ユーザーによる仮想上の物品の利用の態様や期間を合理的に見積もることは困難であるような場合で、実現主義の考え方と大きく矛盾しないことを条件に採用できる会計処理と考えられる。
 一方、ポイントの販売に係る収入をポイントの販売時点において収益として計上している実務は、ポイントの販売時点において役務の提供が完了し、かつ、対価が成立していると解釈できる場合に採用し得る処理であるが、そのような解釈が成り立つ場合は限定的であると考えられる。」


上記の原則的会計処理を実施しようとするならば、オンラインゲーム内のユーザーのポイント使用状況を網羅的に管理しなければならず、場合によっては、別途システム構築が必要になるのではないでしょうか(それとも既にそのレベルでの管理を実施しているのでしょうか)。
一応、実務的に実行困難な場合の逃げ道を認めていますが、他の具体的事例も総じてこのような理論構成になっています。従って、今まで実務では「理論的にはこっちの方が実態に即しているんだけど、実務的には煩雑」との観点で、従来、会計処理されてきた方法を否定する記述も多く、すべての面において、本報告を適用しようとすると実務界では大きな影響が出ることになりそうです。

ただし、前回も言及しましたが、基本的にはIAS第18号「収益の認識」に準拠しているため、2015年ともいわれているIFRS適用を前提とすれば、避けては通れないハードルとなるでしょう。
それでは、IFRSの適用が予定されている企業においては、どこにポイントを置いて対応すべきでしょうか。

本報告書において、様々な具体事例が示されていますが、すべてにおいて収益認識時期および方法(一括、その都度、又は、期間定額など)の判断基準となっているのは、主として次の2要件です。
◎「財貨の移転の完了」「役務の提供の完了」
◎「対価の成立」


具体的取引の収益認識方法の検討においては、常に上記の2要件を満たしているかの判断を行うことになります。

加えて、特に対応を求められることとして、次の2点が挙げられます。
◎収益関連取引における適切な管理体制
◎上記を前提として将来収益の合理的見積り能力


本研究報告やIAS18号においては、基本的に収益実現の2要件を満たさないものについては、その認識を繰り延べるをスタンスをとっています。

さりとて、すべてにおいてこれを厳格適用すると、実務上、一般の財務諸表利用者が感覚として捉える売上高と実態乖離する可能性も考慮して、一部、合理的かつ客観的な将来収益の見積りができるものについては、総収益に対する進捗率に応じて収益認識を認めている部分もあります。

ただし、この見積りに一定の精度と信頼性が求められます。
従って、これが可能な企業と、不能な企業とによって、同一事象の取引であっても、収益認識額に差異が発生することになります。

例えば、#58:「入会金及び会費」の具体例においては、以下の取扱いとなっています。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
(a) 具体的事例
スポーツクラブやゴルフ場等は、返還義務のない入会金等を受領している場合がある。このような取引において、スポーツクラブやゴルフ場等は、返還義務のない入会金等の入金時に一括して収益を認識している場合が多い。

(b) 会計上の論点
・ 返還義務のない入会金等について、入金時に一括して収益を認識することは適当か。

(c) 実務上の論点
・ 入金時以外の時点、特に何らかの基準で配分して収益を計上することとした場合、会計処理の適切性を客観的に立証・検証することが困難な場合がある。

(d) 会計処理の考え方
 入金時(契約時)に一括して収益を認識する実務は、税務上の処理との整合性や、入会金等に対応する役務の内容等に照らして収益が実現したものと判断した上で行われてきた処理であると考えられる。我が国の実現主義の考え方に照らすと、収益認識要件の1つと解される「役務の提供の完了」要件を満たしているかどうか、すなわち、受領した入会金に対応する契約上の履行義務や提供すべき役務の内容を検討し、これらが履行された時点で収益を認識することになると考えられる。
 したがって、例えば、スポーツクラブやゴルフ場等の入会金について、それが単に会員資格を与えることの対価であり、会員資格の付与以外に特に便益を与えるものではないような場合(別途追加的な便益を得るためには当該追加的な便益に対して公正価値での対価の支払が必要となる場合等)には、入金時に一括して収益を認識することが合理的であると考えられる。
 一方、入会金の実質的な内容が、会員に対する単なる会員資格の付与以上の便益を提供するものであると判断される場合には、入会金に含まれる義務の履行を終えるまで「役務の提供の完了」要件を満たさないため、入会金受領時に一括して収益を認識することはできないと判断される場合もあると考えられる。例えば、顧客が入会金を支払い会員資格を得ることによって、非会員に比して低い価格で施設を利用することができる権利を得られる場合には、会員がそうした権利を行使する(非会員に比して低価格で施設を利用する。)まで契約上の義務を履行したと考えるのは一般的には困難であると考えられる。したがって、このような場合には、過去の経験等に基づき会員一人当たりの会員期間における設備利用回数を合理的に見積もり、当該回数を基礎として収益の認識を行う方法や、会員一人当たりの平均的な会員期間を合理的に見積もり、当該期間を基礎として収益の認識を行う方法が考えられる。一方、こうした合理的な見積りが行えない場合には、例えば「役務の提供の完了」要件の充足が客観的に確認できる脱会時点まで収益を認識することはできないと考えられる。 」

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

例えば、ゴルフ場で、メンバー(会員)が10,000円でプレーできるところ、ビジターが20,000円かかる場合などは、上記でいうところの「入会金の実質的な内容が、会員に対する単なる会員資格の付与以上の便益を提供するものである」となってしまうのではないでしょうか。正直、結構大変な話ですね。

現実的な対応として、まずは、自社に該当しそうな具体事例がないかだけは目を通して置いた方が良さそうです(以下に目次を示します)。

仮にピンポイントで該当する事例があった場合、「本報告は強制適用ではない」と言いながらも、監査人から何らかのコメントがある可能性が高いので・・・・

~目次の抜粋~
1.収益の表示方法(総額表示と純額表示)...............................53
【ケース1:商社(同様の取引を含む。)の収益の表示方法】..............53
【ケース2:百貨店・総合スーパー等のテナント売上及びいわゆる消化仕入
(業種にかかわらず同様の取引を含む。)】.............................55
【ケース3:リベートの会計処理(販売費及び一般管理費処理の適否)】....56
【ケース4:不動産賃貸に係る収益の表示方法】.........................57
【ケース5:ガソリン税や酒税等の取扱い】.............................59
2.収益の測定.........................................................60
【ケース6:割賦販売】...............................................60
【ケース7:取引金額が修正される可能性のある取引】...................62
【ケース8:いわゆるバーター取引の場合】.............................63
3.取引の識別.........................................................65
【ケース9:機械の販売契約と保守サービス契約との複合契約】...........65
【ケース10:分割検収条件に基づく役務提供】...........................67
【ケース11:ポイント引当金】.........................................68
4.物品の販売.........................................................72
(1) 物品の販売(不動産の販売を除く。)................................72
【ケース12:物品の受取人と対価の支払人が異なる場合】.................72
【ケース13:顧客先等における自社物品の消費に基づき収益を認識する場合】...................................................................73
【ケース14:売価未確定と考えられる可能性がある取引形態の場合】.......74
【ケース15:納入した物品と他社の財又はサービスの提供とが一体となって
はじめて買手にとって利用価値が認められる取引】.....................75
【ケース16:物品の販売の実現時点】...................................77
【ケース17:返品の可能性がある取引形態の場合(業界にかかわらず同様の
取引を含む。)】.....................................................78
【ケース18:仕向地持込渡条件の製品輸出取引】.........................80
【ケース19:本船甲板渡条件(Free On Board、FOB)による輸出取引】.....81
【ケース20:リテンション(留保金)がある場合】.......................83
【ケース21:請求済未出荷販売】.......................................84
【ケース22:条件付きで出荷された物品-据付け及び検収①】.............85
【ケース23:条件付きで出荷された物品-据付け及び検収②】.............87
【ケース24:委託販売に類似した取引①】...............................88
【ケース25:委託販売に類似した取引②】...............................89
【ケース26:クーリングオフが適用される販売】.........................90
【ケース27:支払完了時引渡販売】.....................................91
【ケース28:直送取引】...............................................93
【ケース29:買戻条件付販売契約①】...................................94
【ケース30:買戻条件付販売契約②】...................................95
【ケース31:出版物及びそれに類似するものの購読契約等①】.............96
【ケース32:出版物及びそれに類似するものの購読契約等②】.............97
【ケース33:出版物及びそれに類似するものの購読契約等③】.............99
(2) 不動産の販売....................................................100
【ケース34:条件付売買(所有権移転後引渡未了)】.....................100
【ケース35:特定の目的で一体利用することを予定している土地の部分売却】..................................................................101
【ケース36:継続的関与のある場合 ① セール・アンド・リースバック】102
【ケース37:継続的関与のある場合 ② 請負及び一括借上又は賃料保証】103
【ケース38:継続的関与のある場合 ③ 出資等を行っている特別目的会社
からの請負】......................................................105
【ケース39:継続的関与のある場合 ④ 買戻権等あり】................106
【ケース40:継続的関与のある場合 ⑤ 代金未回収】..................108
5.役務の提供........................................................110
【ケース41:オンライン・ゲーム内におけるポイントの販売収益】........110
【ケース42:インターネットにおけるコンテンツの配信】................112
【ケース43:家賃保証】..............................................113
【ケース44:通信サービスの販売代理店が受け取る代理店手数料】........114
【ケース45:人材紹介コンサルティング業務】..........................116
【ケース46:不動産の設計及び建築の請負】............................117
【ケース47:旅客輸送事業の輸送収入】................................119
【ケース48:フリーレント期間がある場合の賃貸収入】..................120
【ケース49:据付料】................................................122
【ケース50:製品価格に含まれる役務報酬】............................123
【ケース51:広告の手数料】..........................................125
【ケース52:保険代理店手数料】......................................126
【ケース53:金融手数料①】..........................................127
【ケース54:金融手数料②】..........................................128
【ケース55:金融手数料③】..........................................129
【ケース56:入場料】................................................130
【ケース57:授業料】................................................131
【ケース58:入会金及び会費】........................................133
【ケース59:フランチャイズ料 ① フランチャイズ加盟料の会計処理】..135
【ケース60:フランチャイズ料 ② 什器や在庫の販売に関する損益計算書上の表示】........................................................137
【ケース61:フランチャイズ料 ③ 継続フランチャイズ料の会計処理】..138
【ケース62:フランチャイズ料 ④ 商品販売に関する収益の総額表示と純額表示】..........................................................140
【ケース63:顧客仕様のソフトウェアの開発料 ① 内容の異なる複数のサービスを1つの契約で行う場合】....................................141
【ケース64:顧客仕様のソフトウェアの開発料 ② 分割検収と一括検収】143
6.使用許諾料及びロイヤルティ........................................144
【ケース65:前受使用許諾料及びロイヤルティ ① 返還不要の使用許諾料又はロイヤルティが入金されたが重要な履行義務を負っている場合】....144
【ケース66:前受使用許諾料及びロイヤルティ ② 返還不要の使用許諾料又はロイヤルティが入金されたが、重要な履行義務を負っている場合】..145
【ケース67:前受使用許諾料及びロイヤルティ ③ 返還不要の使用許諾料及びロイヤルティが入金され、さらに、一定の基準を超えると使用量等に応じて追加的に使用許諾料及びロイヤルティを受け取る場合】..........147


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プロフィール

公認会計士 若松 弘之

Author:公認会計士 若松 弘之
某大手監査法人で監査の最前線に立ち10数年・・・
そこで感じた問題意識を実践するために2008年10月に独立開業しました。現在は、公認会計士若松弘之事務所の代表として、監査だけではない会計関係全般の業務を行っています。
http://www.wakamatsu-cpa.com/

会計や監査にまつわる問題点やコメントを自由な立場から深く切り込んで積極的に発信していこうと思っています。
応援よろしくお願いします。

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