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会計と監査実務の最前線
新聞記事など最新の話題で会計的に気になることを公認会計士・監査人の立場から鋭くコメントします!
05 | 2011/06 | 07
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(続き)減損会計は決算に対する企業姿勢の縮図
前回に引き続き、減損会計のハンドリング要素について説明します。
おさらいですが、減損会計の4つのポイントは以下でした。
①グルーピング
②減損の兆候
③割引前将来キャッシュフローの積上げ
④割引率の設定

③最終的に減損損失として計上する金額は、帳簿価額と割引後のキャッシュフローの差である(結局、帳簿価額のうちどれだけがキャッシュで回収できるのか)にもかかわらず、日本基準では、いわゆる2段階方式として、「減損損失の認識」と「減損損失の測定」に分けて減損の処理を行うことになっています。
すなわち、「減損損失の認識」ステップでは、現在割引価値に置き直すややこしい計算をせずに、裸の姿の将来獲得予測キャッシュフローをそのまま積み上げて、帳簿価額を少しでも上回っていれば、減損損失の計上は不要となります。それがたとえ、割引計算をして将来のキャッシュフローが相当程度圧縮され、その状態では帳簿価額を下回っている(=減損状態にある)としても減損損失は回避できることになります。

もちろん、IFRSのもとではバッチリ減損損失が計上されます・・・。いわゆる、ギャップ差です。

何が言いたいかというと、割引計算という手法を省略できるため、減損損失を計上するか否かの会社意思が、より容易に反映されやすいということです。まあ、将来キャッシュフローのベースとなる事業計画に関していえば、3年間の中期事業計画は、それほどハンドリングの幅はないかもしれませんが、4年目移行は会社のさじ加減が利いてくる部分でしょう。例えば、売上規模1000億円程度の企業で、減損損失を10億円にするか、15億円にするか程度のの話であれば、現実的に将来予測の乖離誤差の範囲で処理されることになるでしょう。
もちろん、現実を理解している監査人であれば、その誤差を理解した上で、それが投資家の意思決定をミスリードしうる金額なのかどうかという現実的な監査判断をすることになると思われます。

最後に、④の割引率の決定ですがこれも曲者です。
③の事業計画の誤差については、それなりに「ちょっとやり過ぎではないですか」とか「最後の2年間で帳尻合わせましたね」とか、監査人としても何となく数字をみながら会社のと協議できるのですが、割引率になると話は別です。割引率の設定自体は、会計基準でほぼ決められた数式やアプローチがあります。しかしそこには、よく企業価値評価や株価算定で使用する「ベータ値」やリスク係数などが登場し、これらの複数要素を少しいじったり、組み合わせを試行錯誤することにより、自分の意図する結果に持っていくことが可能となります。この辺りは一度でも、バリュエーション業務をやっていれば、良く分かると思います。

いずれにせよ、算出された割引率が4%が適正なのか、5%が適正なのかは誰にも確たる答えは分からず、会社側が自信を持って「これだ」といえば、なかなか否定するところまではいかないのではないでしょうか。

しかし、割引率は将来キャッシュフローの現在割引価値に大きな影響を及ぼします。将来見積期間の長さや金額規模にもよりますが、割引率1%の差が数億円、数十億円になります。結果的に、減損損失計上額がその金額だけ増減することになります。

③も④も同じなのですが、昨今の監査の難しさは、確固たる答えのない将来の世界の話を、企業の真意を探りながら是非について議論していかなければならない点にあります。デジタル的に割り切れるものではなく、答えに向かって、思考をコンサルテーションするという、いわばアナログ的な能力が求められるのです。

最後に付け加えますが、そもそも減損損失を計上することにどんな意味があるかを忘れてはいけません。

単に「当期は業績が厳しいから、鉛筆なめなめ、減損回避だ」ではレベルが低すぎます。
頭が良く財務会計の事情を十分分かっている企業は、翌期以降の減価償却負担の削減、さらに言えば、それに伴う原価計算へのインパクト、販売単価戦略への影響、マーケットでの価格競争によるコンペティターの締め出し戦略まで考えて、減損損失の計上要否や計上額の調整を行っているのです。
それらの優秀な企業と対等に議論していかなければならない監査人の方も、その辺りは熟知していなければなりません。そうでないと、企業側は腹の内で「うちの会計士はこの程度か・・・」と思われてしまいます(汗)。

減損会計一つとっても奥が深いモノなのです。

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プロフィール

公認会計士 若松 弘之

Author:公認会計士 若松 弘之
某大手監査法人で監査の最前線に立ち10数年・・・
そこで感じた問題意識を実践するために2008年10月に独立開業しました。現在は、公認会計士若松弘之事務所の代表として、監査だけではない会計関係全般の業務を行っています。
http://www.wakamatsu-cpa.com/

会計や監査にまつわる問題点やコメントを自由な立場から深く切り込んで積極的に発信していこうと思っています。
応援よろしくお願いします。

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