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会計と監査実務の最前線
新聞記事など最新の話題で会計的に気になることを公認会計士・監査人の立場から鋭くコメントします!
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「のれん」の償却すべきものなのか?
本日の日経新聞朝刊(企業・財務面)に多額な「のれん」を一括償却(減損)して企業の記事が載っていました。
のれん


 ご案内のとおり、世界的に見ても「のれん」を規則的に償却しているのは日本の会計基準のみとなっており、IFRSへのコンバージェンスの議論のなかでは、「このまま日本だけ「のれん」の償却を続けていくのか」という点は比較的大きな論点となっていました。コンバージェンスではなく、アドプションということになれば、自ずとその議論もなくなり、世界の他の会計基準同様、「のれん」は非償却ということになります。

 ただし、「非償却」だからといって、例えば、買収で巨額に発生した「のれん」が未来永劫そのままの金額で資産計上されるという訳ではありません。当然に資産については毎期(兆候があれば四半期でも)、適切な減損テストを行い、「のれん」としての価値がなくなった、当初存在していた超過収益力がなくなったという判断が下れば、その決算で多額の減損損失が計上される可能性も十分あることに留意しなければなりません。
 ある企業を買収する際には、将来の事業計画からの利益や回収キャッシュ・フローを見積り、買収金額を決定することになりますが、試算された企業価値が買収時の純資産を上回り、かつ時価評価結果として適切な資産に配分されなかった残額を超過収益力、すなわち「のれん」として資産計上することになります。
 はたして、このように買収した企業・事業がきちんと読み通りの利益やキャッシュ・フローを獲得し、試算した「のれん」は正しい評価であったなる買収案件がどれだけあるのでしょうか? 

 個人的な感覚ですが、様々な報道や文献を読んでいると、2~3割がいいところではないでしょうか。従って、残りの7~8割のM&Aについては、減損までいくかは別にして「のれん」が当初見込んでいた超過収益力を発揮していないことになります。さらに数年後経た段階で、減損処理されるケースや、結局、自らの買収金額を大幅に下回る金額で他社に売却されるケースなども多いと思われます。
 その意味では、日本基準が「のれん」は償却すべきとする「超過収益力も年々その価値が低下していくため経年償却すべき」との論拠も、単に保守的というだけではなく、そのようなM&Aから発生する「のれん」の資産価値としての危うさを何とか会計に反映させる手法として一定の説得力があるような気がします。投資家の立場からも、買収からしばらくは企業が買収の失敗を減損という形では露呈せず、ある時巨額の損失が顕在化するというリスクを負うよりは、毎期一定額の償却をしていってもらいとりあえず5年や10年が経ったら、一旦「危うさ」をはらむ資産はゼロクリアされるという会計の方が安心するかもしれませんね。

一般的な世論や論調としては、
「日本だけが「のれん」の償却にこだわっており、世界の会計の波から取り残されている・・・」的なものが多いような気がします。もし、グローバル市場での資金調達やワールドワイド企業との比較可能性というツールとしての側面を無視することができ、純粋な会計理論的なところで主張できるのであれば、「のれん」を例えば、有形固定資産などの設備投資と同列に扱うこと(取得原価を適切な投資期間に減価償却として配分する会計処理)がそれほど間違った理論とは言えないのではないでしょうか。
 さらに、「のれん」とある意味では性質が近い無形固定資産(IFRSでは、例えば、「顧客名簿」なども金額的な見積りが出来れば無形資産として償却対象となります)が償却処理となる一方「のれん」が非償却となることに明確な理論根拠があるとも思えません。

 そもそも、簿記や財務会計は歴史的には、その昔の東インド会社の投資家のために、投資した金額いくらの儲けになっているかを報告するツールとしての機能を担うものとして発達したとのことです。根本的な思想は今の会計でも変わらず、投資された金額が、現状どの程度のポジションにあり、投資が終了した際にどの程度の超過金額として回収されたのかを報告する書類として財務諸表があると考えます。
 その観点からは、ある投資家は「のれん」を定期的に償却していってもらった方が、現状のポジションを適切に把握できる、それによって投資を継続するか、投資を売却するか判断したいという要求を持っているかもしれません。

 すなわち、どちらの処理が会計理論的に絶対正しい、または、誤っているという訳ではなく、その時々の投資家の多数派が、どちらの会計手法を投資決定ツールとして利用したいかという流れによって決まるのでしょう。

まあ、世界的な潮流から日本基準がIFRSをアドプションし、その結果として「のれん」は非償却(減損あり)という会計処理になることは避けようがないので、次に、非償却となる前提でどこに留意すれば良いか論じたいと思います。

最も重要なことは資産計上されている「のれん」に対して、毎期適切な減損テストを実施するということです。
ただし、事実として減損テストや減損損失の計上には、恣意的要素が強いことは理解しておく必要があります。誤解を恐れずに言えば、将来キャッシュ・フローの計画を意図的に弱気なものにしたり、割引率を調整したりすれば、会社の思うところまでは減損損失を計上できる可能性があります。
 あまりに保守的で翌期以降の益出しと断定できる逆粉飾を除けば、監査人の方から「もう少し高めに計画を組むべきです」とは言えないのが現実です。
 経営者から「経営環境は厳しく、この程度低めに将来計画を組むことは過度に保守的とは考えていない。もしも、強気に出たために来期予算が未達成に終わり、減損を出すはめになったら監査人が責任をとってくれるのか!」という言い方をされれば、それが支離滅裂とは分かっていても、概ね会社の意向に添う形になってしまうという現実があります。
 明らかに減損損失を計上すべきところ、会社がそれを固辞する場合には、監査人として「減損処理すべき」と言いやすいんですがね・・・。ただし、そのような状況においても、減損会計の性質が、将来計画や将来予測に大きく依存するために、ギリギリの線であれば、会社側に「当期減損処理するか」または「来期以降の減損処理に回そう」というデシジョンメイクの決定権が与えられているといっても過言ではないと思います。

 従って、本日の記事にもありましたが、来期以降の経営環境や株価への影響などを多少勘案しながら、経営者のハンドリングとして、減損損失を計上してV字回復を狙うのか、減損損失を回避して対象企業(事業)の回復を待つのか、などの戦略的財務会計が可能となっていると考えます(もちろん粉飾やルールから逸脱しない範囲での話ですが)。

あと一つ忘れてはいけない重要な点があります。
そもそも資産計上された「のれん」の金額がそれで良いのかという「当初認識」の話です。冒頭参考図のとおり、「のれん」とは、買収金額から簿価または時価純資産をを控除して計算された差額を、さらに含み資産や無形資産に配分し、それでもなお残る金額を指します。ここで厳格な手続がもとめられるのが「時価評価差額や無形資産への配分」処理です。

仮に買収金額と簿価純資産に一義的な差額が100億円発生したとしましょう。
 A社はこの100億円を適切なコストかけ、専門評価者を用いることによって、顧客名簿や販売ルートとしての無形価値が50億円あり、これは今後5年間程度は有効な情報であるとの結論を得たとします。
 一方、B社はコストと手間を掛けることなく、すべて超過収益力との結論を出しました。
 両社とも「のれん」を償却する場合には、10年が妥当と考えています。

 日本基準またはIFRSのもとで、それぞれどのような損益インパクトがあるでしょうか?

(日本基準)
 A社・・・のれん償却費5億円+無形資産償却費10億円=合計15億円
 B社・・・のれん償却費10億円           =合計10億円

(IFRS)
 A社・・・のれん償却費0円+無形資産償却費10億円=合計10億円
 B社・・・のれん償却費0円            =合計  0円

 上記のように今後アドプションされるIFRSのもとでは、より「無形資産への配分」などの手続の重みが増していくことでしょう。
 さらに言えば、日本ではこのような無形価値や知的財産権、ブランド価値などを評価する専門家や機関が欧米に比べかなり手薄な状況にあるとも思われますので、適切な「のれん」を算定するためにも、今後これらのインフラが整備されることも必要ではないでしょうか。
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プロフィール

公認会計士 若松 弘之

Author:公認会計士 若松 弘之
某大手監査法人で監査の最前線に立ち10数年・・・
そこで感じた問題意識を実践するために2008年10月に独立開業しました。現在は、公認会計士若松弘之事務所の代表として、監査だけではない会計関係全般の業務を行っています。
http://www.wakamatsu-cpa.com/

会計や監査にまつわる問題点やコメントを自由な立場から深く切り込んで積極的に発信していこうと思っています。
応援よろしくお願いします。

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