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会計と監査実務の最前線
新聞記事など最新の話題で会計的に気になることを公認会計士・監査人の立場から鋭くコメントします!
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56社、2%とは!?
本日の記事から。。。(2009年7月2日 日経朝刊財務面)
「2009年3月期から始まった内部統制報告制度で、経営者が自ら「重要な欠陥」があると開示した上場企業は1日までに56社あった。会計処理の誤りを会計監査人から指摘されて内部統制報告書に記載した企業が目立つ。先に導入した米国では初年度に16%の企業が欠陥があると記載したが、日本では全体の2%だった。同報告書は決算書の「品質保証書」ともいえ、新たな投資判断の材料となりそうだ。・・・」

6月末を過ぎ、有価証券報告書の提出が一通り終わりました。今年は何といっても導入初年度の内部統制監査の結果、どうだったのかに注目が集まりました。
本日の新聞記事では、「重要な欠陥」を開示した企業がどのくらいあったかを解説していました。関連のコメントはこちらでも書きましたが、率直な印象を述べます。

「重要な欠陥」企業が56社、全体の2%とありましたが、「そんなに少ないの?」という一方で「やっぱりな・・・」という相反する感が入り交じったものでした。

「そんなに少ないの?」という気持ちの裏には、米国でのSOX初年度の数字である16%に比べ、それまで内部統制やコンプライアンスに対する意識や、手続・意思決定の文書化などの慣行が、日本企業に比べれば1歩も2歩も先行していた米国でさえ16%の企業に欠陥(US-SOXでいうところの、Material Weaknessですが)があったというのに、日本企業の2%は余りにも少なすぎるのでは、というものがありました。

多ければいいというものではありませんが、私が昨年末から今年の初頭にかけて、複数の企業の担当者や監査法人の知り合いなどから「いまだに多くの企業で経営者評価や監査に耐えうる文書化が終わっていない。このままだと多くの企業で大変な監査意見がでるのでは・・・」というコメントを聞いていました。それが蓋をあけてみれば何ということもない、「大変な監査意見」は全体の2%にとどまった訳です。何かがどこかで変わったという感じを持ちました。実際に関係者からも「最後の方は、当初の意気込みがどこに消えたの、という感じだよね。」というため息が多く漏れていました。

しかも、今回「重要な欠陥」を開示した企業の多くは、業務プロセスに重大な欠陥があるのではなく、財務諸表監査の過程での会計処理誤りが、会社のチェックではなく、監査人の監査手続により発覚したため、決算財務報告プロセスに問題があったと言わざるを得なかったケースでした。これについては、当然、財務諸表監査では誤りが修正されることになりますので、「内部統制上は重要な欠陥がありましたが、財務諸表監査では治癒しています。投資家のみなさん、そんなに気にしないで下さいね。めでたし、めでたし。」という雰囲気さえ感じられます(とは言っても、内部統制監査意見に限定事項をつけるのは監査人・会社にとってそれなりに大きな話ですので、そんな安穏な実情ではないかと思いますが)。

おなじ新聞の別の記事で識者のコメントとして
「内部統制制度の初年度にもかかわらず「重要な欠陥がある」と開示した企業が全体の2%にとどまったのは、先行して導入した米国の事例を参考に入念な準備を進めてきたためだ。金融庁や監査法人などが中心となり制度の周知を進め、多くの企業が社内体制の整備を推進してきた結果だろう。」
というものがありました。確かに入念な準備の結果というのは分かりますが、素直に頷けない部分もあります。

それは、途中で金融庁が「11の誤解」なる異例の見解を出し始めたあたりから、監査人側に「気後れ」が広まっていったと考えられるためです。この横やりがなければ、「重要な欠陥」企業は、全体の2%では済まなかったのではないでしょうか。
それを示唆するように近くにこんな記事もありました。
「監査法人トーマツは1日、上場企業を対象とするアンケートに回答した企業の21%で不正が発生していたとの調査結果を発表した。具体的な不正行為の内訳は、現金や在庫の横領・窃盗などが69%と最も多く、売上高の架空計上などの不正な財務報告が22%で続いた。対策として研修を実施していると回答した企業は61%だった。また、2009年3月期から始まった金融商品取引法に基づく内部統制報告制度への対応が、不正の防止や発見に一定の効果があると答えた企業は70%に上った。同調査はトーマツが全国上場企業(3870社)を対象にアンケートを送付し、512社から回答を得た」

ん~、実態はどうなんでしょう。やはり、内部統制や不正防止を真剣に取組めば、本来、見過ごせない「重大な欠陥」はもう少し多いのではないでしょうか。

そうは言うものの、最終的には景気の低迷を受け、これ以上企業に内部統制負担をさせるべきではない、ゴーイングコンサーンの方が大事だという世論(と金融庁)の後押しがありました。
その結果、もし監査人として何のしがらみもなく内部統制監査基準に従って意見形成するならば、当然に「限定付適正(重大な欠陥あり)」になっていたであろう企業においても、無限定適正意見が付いたケースも相当数あったのではないでしょうか。

たとえが不謹慎かもしれませんが、監査意見を表明する最終段階の気持ちとしては「赤信号、みんなで渡れば怖くない」というものではなかったでしょうか。

ただし、今回監査結果が出そろったから、内部統制監査の初年度の総括が終わった、という訳ではありません。もともと、この制度の趣旨に立ち戻る必要があります。
この制度は、財務報告における重大な粉飾や誤謬を防ぐことを主たる目標にしています。今回これでようやく、その仕組みが各企業に整備されたという段階です。
お察しのいい方は、「無限定適正の監査意見が付いている企業は内部統制の『整備』だけではなく、『運用』状況にも問題はなかったはずだ」ということに気がつくと思います。

しかしながら、個人的見解ですが、今回はそこまで行き着かなかった部分も多々あるのではと思います。例えば、2008年12月末までにいくつかの不備が発見されていた場合、本来それが改善され、一定期間の運用状況にも問題がなかったとする「ロールフォワード」が必要なのですが、果たしてそれが十分に出来たかは疑問です。

例えるならば、「急に病気が発見されたため、執刀時間に制約はあるが、緊急手術を行わざるを得なかった。とりあえず何とか病巣は取り除き、急いで傷口を縫合し、終了予定時間には間に合った。術後の経過はこれからじっくり観察しなければ・・・」という感じでしょう。

従って、内部統制初年度の総括をするのは時期尚早です。これからの1年~2年の間に、はたして従来に比べ、粉飾決算、不正取引、訂正報告書の提出などが減ったかどうかによって、その真価が問われると考えます。
私が懸念しているのは、今はその「術後の経過観察」がスタートしたに過ぎないにもかかわらず、関係者の間では「あ~、ようやく内部統制が終わってよかったね。2年目以降は少し楽になるな。」という空気が充満している点です。

経営者による粉飾決算に内部統制がどの程度有効かという根本的な問題はありますが、これだけのお金と時間をかけ、ほとんど全ての企業でその仕組みは良好と保証された訳ですから、やはり「内部統制のおかげで、粉飾や不正が減ったな」という状況にならないとおかしいのではないでしょうか・・・。

J-SOXの功罪を要約すると次のとおりです。
(功)
◎世の中に「内部統制」という言葉が普及し、コンプライアンスとともに各人の意識がアップした(なかには今だに「承認印の押印箇所が増えて面倒くさい」とか思っている人もいますが)
◎取引フローを整理してみたら、案外無駄な作業があったことに気づき、それを省くようになった
◎監査部や経理部が、事業部や現場の人とコミュニケーションを取る機会が増え、そのプレゼンスが向上した


(罪)
◎この(横並びの)監査報告書をもらうために、こんなに時間とお金をかけたのか。外部監査人による法定監査を義務付けるほどのものだったのか。
◎まじめにやった企業とそうでなかった企業で、結果にそれほどの差は出なかった(制度のコンセプトエラーからくる不公平感)
◎儲かったのはシステム・コンサル・監査業界だけで、日本の上場企業全体での経済損失は相当のものとなった
◎上場準備企業にとって上場することへのハードルがあがり、「だったらわざわざ上場しなくても」という風潮さえ出始めた。
◎四半期報告制度の導入と重なり、経理・財務担当者の負担が許容限度を超えたため「経理離れ」が加速した。新入社員の配属希望で「経理」が圧倒的に少なくなり、「経理には、やる気のない人が送られてくる・・・」と嘆く中堅経理マンの声も多く聞きます。


以上、勝手に言いたいことをいってすみません。いずれにしても、J-SOXに携わった皆さん本当にお疲れさまでした。
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プロフィール

公認会計士 若松 弘之

Author:公認会計士 若松 弘之
某大手監査法人で監査の最前線に立ち10数年・・・
そこで感じた問題意識を実践するために2008年10月に独立開業しました。現在は、公認会計士若松弘之事務所の代表として、監査だけではない会計関係全般の業務を行っています。
http://www.wakamatsu-cpa.com/

会計や監査にまつわる問題点やコメントを自由な立場から深く切り込んで積極的に発信していこうと思っています。
応援よろしくお願いします。

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