エルピーダとはどんな会社か?(その2) |
(その1)はこちらをご参照下さい。

改正産業活力再生法に基づく公的支援第1号企業となったエルピーダメモリ?の有価証券報告書を眺めて気になった点をコメントしたいと思います。 興味のある方は2009年3月期の有価証券報告書(ダウンロードはこちらから)を参照しながらお読み下さい。 まず、同社の事業内容についてです。ホームページには、 「世界No.1のDRAMソリューションカンパニーを目指す、エルピーダメモリ」とあります。 「DRAM」とはパソコン等のお詳しい方であれば、耳慣れた言葉かもしれませんが、現在のデジタル製品にとってなくてはならないデータ記憶のための部品とでも言うものです。
同社の説明では、「DRAM(Dynamic Random Access Memory)は、キャパシタに電荷を蓄えることによって、一時的にデータを保持するメモリ半導体です。他のメモリ半導体に比べて、高速かつ大容量化しやすい特長を有することから、DRAMは今日、PCやサーバ、モバイル機器、デジタル家電など、さまざまな情報通信・エレクトロニクス機器のメインメモリとして組み込まれ、その進化を支えるキーデバイスのひとつとなっています。」とあります。 また、このDRAMは以下の2つのカテゴリーに分けられています(IR資料を読む際に理解しておくと便利)。 ◎コンピューティングDRAM分野 ◎プレミアDRAM分野
これらいずれの分野とも、とにかく技術革新のスピードと価格の下落のスピードが速く、多額の研究開発及び設備投資が必要となります。また、国別の競争も激しいなか、現状、DRAM市場は不況のまっただ中にいる状況です(参考記事はこちら)。
この辺りの事情を、財務ハイライト(有報2ページ目)で確認すると以下のとおりです。 ・売上高 :(H19/3)4,900億円 ⇒ (H20/3)4,054億円 ⇒ (H21/3)3,310億円(▲18.3%) ・経常利益:(H19/3)636億円 ⇒ (H20/3)▲396億円 ⇒ (H21/3)▲1,687億円 ・純資産額:(H19/3)3,789億円 ⇒ (H20/3)3,478億円 ⇒ (H21/3)2,664億円(▲23.4%) ・営業キャッシュ・フロー: (H19/3)+998億円 ⇒ (H20/3)+831億円 ⇒ (H21/3)▲483億円 ・投資キャッシュ・フロー: (H19/3)▲1,366億円 ⇒ (H20/3)▲2,603億円 ⇒ (H21/3)▲754億円 ・財務キャッシュ・フロー: (H19/3)+905億円 ⇒ (H20/3)+1,106億円 ⇒ (H21/3)+1,403億円
これを見てどのような感想を持つでしょうか?? 個人的な感想を率直に述べると、 H20/3からH21/3の動きは尋常なものではなく、ブレーキが壊れた車を下り坂で運転してるような状況ではないでしょうか。その先に軽い上り坂が待っていて自然に車が減速するのか、はたまた、スピードはさらに加速していき急コーナーに突っ込みコースアウトするのか、はいわば神のみぞ知ると言ったら大袈裟でしょうか・・・
特にH20/3期の投資キャッシュ・フローとして2603億円もの資金を支出しているにもかかわらず、翌期H21/3期において、売上が前期比で約2割も落ち込み、経常損失が1687億円発生してことを見れば、その投資によって取得された設備はいまどのような状況になっているかは「火を見るよりも明らか」ですね(設備操業度、稼働率は何%なのでしょうか)。
なによりも、危機感を募らせるのは、それまでは営業キャッシュ・フローが常にプラス(+998、+831億円)であったのが、一転、マイナス(▲483億円)となったことです。売上が多少減少しても、営業キャッシュ・フローが安定的にプラスであれば、その範囲で設備投資を行い(同社の場合、営業キャッシュ・フローだけでは投資キャッシュ・フローを賄えない状況が続いていましたが・・・)、財務キャッシュ・フローを改善することもできます。 しかしながら、営業キャッシュ・フローがマイナスになれば、与信能力が低下し、資金調達コストが上昇するため、一般的に設備投資を抑制せざるを得なくなります。結果として、同社が戦っている半導体などの最先端事業領域では、設備投資の抑制は競争力の低下という形に如実に表れ、ますます売上が減少していくという負のスパイラルに陥っていく危険性が高まります。 さらに言えば、このような超設備投資型企業で営業キャッシュ・フローがマイナスになるというのは相当の緊急事態です。それは、多額の設備投資を毎期実行している限り、多額の減価償却費が発生するため、何もしなくても、営業キャッシュ・フローはプラスからスタートするからです。有価証券報告書67ページをご覧頂ければ、営業キャッシュ・フローの2行目に、+940億円及び+947億円の数字が並んでいるのが分かると思います。すなわち、これを吹っ飛ばす営業損失がない限り、営業キャッシュ・フローはそう簡単にはマイナスにならないのが世の常なのです(減損や評価損などの非現金支出費用はいくら発生してもキャッシュ・フロー上は問題ない)。
また、同社はもともとNECと日立のメモリ製造事業を母体としながら、三菱電機のDRAM事業を譲り受ける形で、2004年11月に東証一部に上場しています。 似たような企業として?ルネサステクノロジがあります(日立製作所55%、三菱電機45%)が、こちらもかなり苦戦を強いられており、一部ではエルピーダ同様、公的資金の注入が取りざたされています。
共通して言えることは、非常に技術革新が激しく大規模な設備投資が求められる企業においては、自己資本だけでは資金調達が追いつかず、間接金融レバレッジが必須となるため、右肩上がりの成長局面では業績がてこの原理で拡大するが、一旦、需要減退局面に入ると急激に資金繰りが悪化するということです(まあ、投資家もある程度はそれを理解して投資しているものと思われますが)。
さて、ここからがポイントです! このような過剰債務企業の有価証券報告書で、真っ先に見るところは、経験上、次の箇所と思われます。 1.貸借対照表の負債の部にて有利子負債の増加額を体感する 2.損益計算書の支払利息の増減を確認する 3.連結附属明細表の「社債明細表」「借入金明細表」を確認する 4.有利子負債に関する注記箇所(担保差入状況や財務制限条項など)を確認する 5.連結注記で気になるところがないかレビューする
それでは、1つずつ見ていきましょう。
1.流動と固定負債合計ベースでの有利子負債(厳密にはリース債務も有利子負債ですが、ここでは省略します)を見ましょう。
H20/3: 384+1,600+818=2,802億円 ↓ H21/3: 28+550+1,100+1,050+2,220=4,948億円 となり、倍に近い勢いで増加しています。 なお、当期増加の多くは1,100億円にのぼるコミットメントラインの実行(引き出し)による間接金融です。会社の目論見としては500億円のMSCB(利息なし:償還期限1年後)で調達する予定でした(後述の3.にて詳細分析)がこれが頓挫したため、やむなくコミットメントラインを実行したというところでしょうか。 残りは、当期に新規連結したRexchip Electronicsという台湾の合弁会社が抱える借入金が連結貸借対照表に加算されたためです。
有利子負債がこのような増え方をしている場合、その調達資金の多くが設備投資に回っていたとしても、売上が2ケタ成長でもしていない限り、投資家・債権者としては不安になるでしょう。ましてや売上が2割減少し、DRAMの販売単価も激烈な勢いで下がっている状況では・・・。 いずれにせよ、金融機関から調達できるものすべて手を尽くした状況といっても過言ではないでしょう。
2.連結損益計算書の営業外費用「支払利息」を参照しましょう。
H20/3: 42億円 ⇒ H21/3: 63億円 となっています。 なお、それほど増加してないのでは?とお考えの方もいると思いますが、 H21/3期中で調達した借入金も多額にありますので、実際に1年を通した金利負担の増加は当期(H22/3期)にさらに表れるてくると思われます。
3.有価証券報告書107ページ以降を見ます。 まずは、「社債明細表」です。 無担保社債を第1回から第6回まで総額1,600億円発行しています(すごいペースです・・・)。償還期限は短いもので5年、長いもので7年となっています。利率は第1回が1.45%と最低でしたが、ここ3回は2.29%、2.09%、2.10%となっており、金利負担がじわじわ効いてきている状況です。なお、第1回無担保社債550億円は、来年3月が償還期限となっており、以降、毎年、300億円~450億円の償還が続きます。
注意するのは次の注記です。 「当社は、平成20年11月4日に第三者割当による「第1回無担保転換社債型新株予約権付社債」を以下のとおり発行致しました。そのうち一部(6,000百万円)について新株予約権の権利行使が行われましたが、平成21年1月9日に未償還残高(44,000百万円)全額を繰上償還したため残高はありません。」 ホームページによると500億円のうち60億円分が転換行使されたため、これが起債条件における「大量行使」にあたり、残額が繰上償還されたようです。 11月の発行時点で既に市況は大幅に悪化していたにもかかわらず、直近の株価を参照するものではなく、少し前の平均株価から算定した高い転換価格(@1,017円)での発行になったため、下限転換価額(@509円)を下回る株価が20営業日以上続いたというのが総括です。いろいろな悪条件が重なったにもかかわらず社債発行を断行した結末でした(主幹事の野村證券の対応もどうだったのでしょうか)。 結果的に500億円の資金調達のうち440億円は手許資金の返還で消えたため、当初の目的が果たせないばかりか、市場からの同社に対する評価も下がり、資金繰り悪化観測が急速に広まったのではないでしょうか。この後、社債による調達はありません。
次に「借入金明細表」です。 ここでは、返済スケジュールに留意します。 H22/3(当期)返済予定 1,100億円! ⇒ H23/3:780億円 ⇒ H24/3:339億円 となっています。 当期末までに返済する1,100億円は、上記1.で書いたコミットメントライン実行額と思われます。H21/3期末のキャッシュ残高が、1,136億円なので、仮に営業キャッシュ・フローと投資キャッシュ・フローが均衡したとしても、ほとんど手許のキャッシュが枯渇する見当です。さらに言えば、営業キャッシュ・フローが早期
あと一息です・・・ 本日はここまでとして、続きは明日更新します。
追伸:本日7月6日は「公認会計士の日」でしたね。日経の広告見たでしょうか。 キャッチフレーズは微妙な感じですが、日本公認会計士協会のホームページが新しくなってますね。
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